教育問題に深く切り込んだ話題作『教育虐待 ―子供を壊す「教育熱心」な親たち』

「教育虐待」という言葉が、最近よく取りざたされています。定義としては「教育熱心な親や教師などが過度な期待を子どもに負わせ、心身が耐えられる限度を超えて教育(勉学・習い事など)を強制すること」です(参考:NHK)。

これらは中学受験などが過度に競争的になったことで、引き起こされた産物なのかもしれません。その実態を描いたマンガが、原作として石井光太先生、構成に鈴木マサカズ先生、作画でワダユウキ先生が関わった『教育虐待 ―子供を壊す「教育熱心」な親たち』です。

【作品紹介】

舞台となるのは、教育関係のメディア企画などを行う編集プロダクション・エデュケーション企画。その代表を務める石橋大地と、社員の南麦が主人公です。

物語は、御三家(偏差値が高い人気の学校3つ)の受験まであと10日に迫った、とある塾での一コマから始まります。そこで描かれているのは、受験での合格を目指して声を張り上げる講師と親、うつろな目で「エイエイオー」と言っている子どもの姿。

受験までの道のりは、家庭環境によっても異なります。本作はさまざまな家庭環境にある親子をテーマに、親から子への愛のムチがもたらした悲劇と、現代社会の闇を描いた社会派漫画です。

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【教育虐待とは?】

少年院やフリースクールに通っている子どもは、かなりの割合で虐待を受けていると言われます。よく問題として取り上げられるのが、身体的虐待・心理的虐待・性的虐待・ネグレクト(育児放棄)です。

しかし、その中に本作で取り上げる「教育虐待」が含まれていない可能性のあることは、あまり知られていません。

教育虐待とは、最初にも書いたとおり「子どもに過剰な期待を負わせることで、心身が耐えられる限界を超えてまで勉強や習い事などを強要する」行為全般のことです。

一例をあげると、下記のような行為が該当します。

  • 期待通りの成績でなかった時、子どもに怒鳴りつけること
  • 勉強のために睡眠時間を強制的に削らせること
  • 子どもの限界を超えた勉強を強制すること
  • 子どもの自尊心を傷つける発言をすること など

出典:みんなの教育技術

これらはすべて、親が教育のためによかれと思ってした言動・行動です。しかし、これらの行為がきっかけとなり、親による子どもの殺害や子どもによる親の殺害へと至る、痛ましい事件も起こるなど社会問題化しています。

【見どころ】

本作で取り上げられているのは、どこにでもありそうなごく一般的な家庭です。しかし、そのごく一般的な家庭は、子どもへ塾通いや中学受験を強制したことで、崩壊の道へと進んでいきます。

その理由は、営利を追求する塾が行う「成績を上げるためには補講が必要」などの煽り文句かもしれません。あるいは、ママ友同士で作るグループでの格差に焦る心理もあるでしょう。

そうしたものに絡め取られることで、ますます洗脳されていく親子の心が描かれています。

一般的には、教育虐待に走りやすい親の特徴としてあげられるのが、下記の点です。

  • 自分の学歴にコンプレックスがある
  • 両親の社会的地位が高い
  • 周囲の環境などにより教育にプレッシャーがある など

出典:KIDSNAシッター

教育虐待と取られかねないような言動・行動は、多くの親がついやってしまいがちなこと。しかし、そのことに気づけばまだまだ引き返せる可能性もあります。

本作が、親子の関係のあり方を振り返る一助になれば幸いです。

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【作品データ】
作画:ワダユウキ
構成:鈴木マサカズ
原作:石井光太
出版社:新潮社
コミックバンチKaiにて閲覧可能
刊行状況:既刊1巻