高杉さん家のおべんとう 1

弁当が織りなすハートフル家族ドラマ『高杉さん家のおべんとう』

高杉さん家のおべんとう 1 【あらすじ】
大学で博士号を取ったものの教職に就けず、さえない日々を送る三十路男・高杉。そんな彼に「母を亡くした女の子を引き取ってほしい」と弁護士から連絡が入る。その少女・久留里(くるり)は中学一年生。他界した母親とは高杉の叔母であり、初恋の相手でもあった。気持ちの整理がつかないまま一緒に暮らし始め、やはり慣れない環境で戸惑う高杉。そんな二人の距離を縮めるカギは「お弁当」にあった……?

【みどころ】
未婚のアラサー男が、いきなり少女を引き取って同居することになる――近年では『うさぎドロップ』『マイガール』など、よく似たモチーフを扱ってアニメ化・実写ドラマ化された作品は少なくない。うまく描くことができれば、失われつつある家族の絆を思い出させ、読者(視聴者)から共感を得やすいということだろうか。

この『高杉さん家のおべんとう』がおもしろいのは、一話完結エピソードのなかに、二人の仲を取り持つアイテムとして“おべんとう”が登場するところだ。同居し始めたばかりの時は、どうしようもなく無口で無表情な久留里だったが、母親の作った料理の話題には強い反応を示した。そこで中学生と研究者を結ぶ唯一の共通点――毎日の昼食は外で食べる――からお弁当というキーアイテムが浮上してくる。久留里がきんぴらごぼうを作り、高杉もハンバーグを作り……そうやってコミュニケーションを重ねるうち、少しずつ互いの考えていることが理解できるようになっていく。このへんの描写は作者が女性ということもあるためか、とても丁寧に描かれていて好感が持てる。

また、個人的に素晴らしいと思ったのは、この作品は何事においても「ほどよい加減」なところだ。独身男の元に美少女が転がり込むというテーマは萌え系アニメやゲームまで含めると驚くほど多いが、とにかく無用なサービスシーンばかりで非常にあざとい。対して、本作にお色気シーンはほぼ無いと言ってよく、だからこそ何気ないシーンで見せる久留里の笑顔にほっこり和んだりできる。

料理の果たす役割についても同じだ。某・国民的グルメ漫画のように「料理ひとつで人間関係すべてが解決する」というわけではない。あくまでお弁当というのは二人が会話するきっかけに過ぎず、結局は自分で悩んだり、まわりの人たちからアドバイスを受けて解決していくしかない……そんな「ほどよい自然な展開」がストーリー面でも貫かれている。

読者からの評判も良好なのか、今年発表されたマンガ大賞2012年ではトップ10入りを果たした。今のところメディアミックスの話は聞かないが、おそらく遠くない将来にアニメ化か実写化される可能性は高いだろう。良質なホームドラマを求めている読者には現在イチオシとも言える作品だ。

【作品データ】
・作者:柳原望
・出版社:メディアファクトリー
・刊行状況:5巻まで(続刊)

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