■あらすじ
関ヶ原の戦い中、薩摩の猛将・島津豊久は退却する味方を逃がすため一人で死地に残った。追っ手は退けたが、豊久自身も重傷を負ってしまう。瀕死でさまよう豊久は、妙な通路を抜けて見知らぬ土地へ迷い込んだ。そこは耳のとがったエルフたちが暮らす別世界。豊久は“漂流者(ドリフターズ)”と呼ばれ、謎の「黒王」が率いる「廃棄物」たちとの戦いに巻き込まれていく……。
■みどころ
もしも『ヘルシング』の作者が『ベルセルク』のようなファンタジー舞台設定で『スーパーロボット大戦』を繰り広げたら――? ひどく乱暴なたとえだが、そんな夢いっぱいの痛快娯楽アクションなのだ。
本作でいう漂流者(ドリフターズ)は、島津豊久だけではない。日本人なら織田信長や那須与一、太平洋戦争のエースパイロット・菅野直、外国からもハンニバル、ワイルドバンチ強盗団などが異世界に迷い込んでいる。
敵の「黒王」側にも土方歳三、ジャンヌ・ダルクといった有名人が参戦。彼らはいずれも一人だけで物語の主役を張れるほどの人物ばかり。それが洋の東西、時代を超えて激突するわけで、まさにオールスター夢の競演といった感じだ。作者は以前、コミックス表紙のおまけ漫画でゲーム『Fate』をひどく気に入っているような描写をしていたが、歴史上の英雄たちを集めてバトル……というアイディアはそのあたりからも影響を受けたのかもしれない。
さて、まだまだストーリーは序盤と思われるため今後の展開は不明だが、ブランク明けでも“平野節”は健在。敵味方とわずバッタバッタ倒されていく圧倒的な死体の量、印象的なコマ割りとセリフまわし、存在感あるキャラクターの作り込み、挙げ句は毒電波があふれだす巻末オマケ漫画(&表紙カバー下の漫画)まで、まったく衰えなし。前作『ヘルシング』ファンならば間違いなく読んで損はない。
魔術やドラゴン、エルフたちのファンタジー世界で平野キャラクターがどう活躍していくか、実に楽しみである。
■受賞予測
あの『ヘルシング』で日本中どころか海外まで名を馳せた平野耕太の最新作だけに、注目度はかなり高い。独特の雰囲気とセリフまわしを評価する選考委員が多ければ、十分に上位も狙えるだろう。
ただ刊行数がまだ少なく、その序盤も個性的なキャラクターが入り乱れる“ごった煮”状態なので、現時点で大賞にまで推す声が増えるかどうかは微妙なところ。独断と偏見でランキング予想させてもらうなら中堅ポジション(4~6位)に落ち着きそうな気がする。
もちろん歴代の平野作品を愛読しているファンとしては、授賞式ではっちゃけたスピーチをブチかます作者も見てみたい。選考委員のノリの良さに期待しよう。
■作品情報
作者: 平野耕太
出版社: 少年画報社
掲載誌: ヤングキングアワーズ
既刊数: 1巻まで(続刊)
(※注)
このレビューは2010年7月に投稿された記事を「マンガ大賞2011」むけに一部加筆したものです。