児相の現実がわかるマンガ『ちいさいひと 青葉児童相談所』

こども家庭庁の発表によると、令和4年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数が速報値で219,170件で、前年比で5.5%(11,510件)増加。過去最多を更新しています。2011年が59,919件なので、11年前から比較すると3.6倍以上増えている計算です。

実際、日本の児童福祉司が1名あたり抱えている案件の平均が、新規と継続案件の合計で約100件。欧米では約20~30件なので、いかに人手不足なのかがわかります。そんな児童福祉の現状を描いた作品が、夾竹桃ジン先生の『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』です。

主人公は、福祉専門職として青葉市に採用された児童福祉司の相川健太。物語は、ある小さい男の子が両親に食事を求めたところ「うるさい!入ってろ!」と、檻に閉じ込められるという重たいシーンからはじまります。

日本は「生活保護」などのセーフティネットがあり、守られているというイメージを持つ人が多いでしょう。実際、一般的な会社員は毎日何らかの手段で会社に行き仕事をし、帰宅して家族団らんするという現実があります。

その一方で、何のいわれもないのに親から虐待を受け、命の危機に瀕している子供がいるわけです。児童福祉司は、なにか事件が起こるとやり玉にあげられがちな立場にありますが、ギリギリのところで子供を虐待から守る砦の役割を果たしています。

実際、筆者も1巻の最初に描かれたエピソードを見て涙が出てきました。特に印象に残ったのは、健太がどこかやる気のない新人の山下に発した「一般職員の中には望んで異動してきた人だけではなく、望んでいないのに異動してきた人もいる。その一方で、こうして檻に閉じ込められるちいさいひとがいる。そのちいさいひとを、我々は助けられる立場にいるんだ」という言葉です。

本作は、2015年に「読む人権 じんけんのほん いま読みたい じんけんマンガ50」に展示されるなど、人権意識を持つためにぜひ読んでもらいたい一冊といえます。

【作品データ】
作画:夾竹桃ジン
シナリオ:水野光博
取材・企画協力:
出版社:小学館「ビッグコミック」連載中
刊行状況:1~18巻(以下続刊)