【あらすじ】
両親を亡くしてからずっと姉と暮らしてきた少年は、その姉をも亡くす。
奇しくもその日の朝に喧嘩し、謝れないまま永遠の別れになってしまった。
しかし姉の霊が視える葬儀屋は、自分を責める弟に自分の本当の気持ちを伝えたいと現れる。
その行方は──?
【みどころ】
日本では人が死ぬと火葬されるが、遺族が一晩ほど一緒に過ごせるようになっている。その代わり、お通夜だの葬儀だので忙しく、悲観する暇もないのが実情だ。
本作『ようこそ亡霊葬儀屋さん』は、霊が視える体質の若い葬儀屋社長が、最期に一番大切な人に伝えたかった思いを届けるサービス(?)付きである。
得てして人は、見えないものを信じなかったり、怖がったりするものだ。
それが死んでしまった大切な人であるほど「霊などいない」と気丈に振る舞ったりして、後悔することも多々あろう。
ここに登場する葬儀屋は穏やかで優しく、死者の最期の願いを叶えることを信条としている。それと同時に、残された者の心も軽くなるようにと……。
若くても突然の事故や発作で亡くなる人は少なくない。しかし、多くの人は自分やその近しい人が死んでしまうことを想像しない。
だからこそ、死者よりも残された方に悔いが残るのだ。
もっと素直にしていれば、もっとコミュニケーションをとっていればと、後悔したところでどうにもならなくなってから、ようやく大切な人の死に真に直面することになる。
葬儀屋にだけ「視え」て、他の誰にも霊が見えなければ、奇異な目で見られるのは当然だ。
遺族に「バカにするな」と怒りを買うのも仕方あるまい。
しかし大切な人の最期の優しさを伝えてくれる葬儀屋は、やがて離れ離れになる魂を繋ぎ止める。
身体は死んでも、愛する人はそばで見守ってくれているはずだ。
【作品データ】
・作者:吉良いと
・出版社:集英社
・刊行状況:全3巻