「女の子だから」に立ち向かおうとする少女を描く社会派作品『女の子がいる場所は』

昭和生まれにとっては元号が2回変わり、平成生まれにとっては元号が1回変わって「令和」になりました。ちなみに昭和が終わってから34年、平成が終わって3年ですが、いまだに「女性(男性)とはこうあるべき」という固定観念があります。

これは全世界に共通する概念で、各国で「女の子なんだから」という理由により、本当にやりたいことなどが叶えられないことも。そんな社会から気づきを得て、本当の自分を取り戻そうとする少女を描いた物語が、やまじえびね先生の『女の子がいる場所は』です。

本作には、さまざまな国に住んでいる5人の少女(10歳)が描かれています。

  • サウジアラビア
  • モロッコ
  • インド
  • 日本
  • アフガニスタン

彼女たちには、ある共通点があります。

それは、「女の子なんだから」という理不尽な理由で、未来を閉ざされる可能性があること。

イスラム圏とインド・アフガニスタン・日本では、文化・宗教的背景はまったく異なります。それでも、女子・女性差別は共通して起こります。

何よりも大変なのは、差別的行動をするのが男性だけではない点です。長年の習慣など空気のようになっていることもあり、差別される側だったはずの母親・祖母世代の女性が行うことも。

たとえば、サウジアラビアはイスラム圏の中でも戒律が厳しい国で知られており、女性が五輪に出場できるようになったのが、2012年のロンドン五輪からでした。また、2018年まで女性が公の場でスポーツすること、スタジアムなどで観戦することが禁じられていました。

そのため体育の授業が受けられないばかりか、前転(でんぐり返し)ができない人も珍しくなく、本作に出てくるサルマもサッカーが好きなのに、男の子とサッカーができませんでした。

これに限らず、男の子というだけで優位に立つ、女の子というだけでスタートラインが違う事例はたくさんあります。

実際、男性は「男性である」というだけで抑圧されることもなければ、選択肢を狭められることもないので、そこを見ようともしないという現実はあるでしょう。

作画については、背景は決して多くありません。しかし作られた空間を活用して、うまく訴えたいことを主張している点は高く評価できます。

いまだに強く残るジェンダーの問題について深く考えるために、すべての人に強くおすすめしたい作品です。

【作品データ】
作者:やまじえびね
出版社:KADOKAWA(ビームコミックス)
刊行状況:全1巻