寄席芸人を取り巻く人情噺を描いた大作『寄席芸人伝』

2016年から何度目かのブームが続いている落語。コロナ禍で開催される落語会の数も減少傾向でしたが、少しずつ開催される寄席・落語会の数も戻ってきつつあります。

どこかで会場を借りるなどして開催される落語会もあれば、新宿末広亭など「定席」と飛ばれる場所で毎日行われる場合もあるのですが、そこにはさまざまなドラマが起こるもの。そんな芸人を取り巻くドラマをオムニバス形式で描いたものが、古谷三敏先生の『寄席芸人伝』です。

本作は、1978年~1989年まで足かけ11年にわたって連載。明治から昭和中期にかけてさまざまな時代を舞台にして、落語家をはじめとした寄席芸人のドラマを描いています。

私たちはまだ生まれていないので、これは想像でしかありませんが、落語が庶民の娯楽として受け入れられており、町にも活気や人情が残されていた時期であったことが想像できるでしょう。

登場する人物は、いわゆる「名人」と呼ばれる真打から、若手真打、芸の上達に苦心したり慢心する二つ目、なったばかりの前座や高齢になって入門する前座、寄席に登場する漫才師なとといった色物芸人までおり、その立場や地位、年齢など多種多様です。

架空の人物ではありますが、エピソードは実在する落語家などがモデルとなっているので、リアリティを感じる作品となっています。

基本的にはシリアスな物語ながら、時にはユーモアを交えて寄席とその周りを取り巻く人間模様、それぞれが持ち個性がひとつひとつの物語で語られます。よく疑問に思われるであろう「多くの落語家はなぜ声色を変えないのか」といった問題についても、作者の解釈を交えて答えるなど、連載終了から30年経過した現在で読んでも新鮮さを感じるマンガです。

絵柄は師匠でもある赤塚不二夫先生の流れを踏襲。デフォルメされた3頭身を基本としており、シンプルに纏めています。キャラクターは柔らかいタッチで描かれており、『BAR レモン・ハート』にも通じるうんちくマンガともなっています。

本作は後に小説化されたり、エッセイ集が刊行されるなどの反響がありました。実際にこれを読んで落語ファンになった落語家も多く、落語の入り口としておすすめできる作品です。

【作品データ】
作者:古谷三敏(ファミリー企画)
出版社:小学館
刊行状況:全11巻