落語を巡る愛憎と高座を描写した最高傑作!『昭和元禄落語心中』

落語は今から約400年前の江戸時代・元禄年間に誕生した、日本の伝統芸能です。ブームが来たり衰退したりを繰り返しながら現在まできて、2016年からは何度目かの落語ブームがきています。

今はコロナの影響もあって減少していたものの、コロナ前の東京都内では毎日1,000件以上の高座が開催されていたことからその一端がおわかりいただけるでしょう。そんな落語に魅せられた男たちを描いた物語が、今回ご紹介する雲田はるこ先生の『昭和元禄落語心中』です。本作は第21回手塚治虫文化賞など、数々の賞を獲得。2016年と17年にはアニメ化、18年にはドラマ化されて話題となりました。

本作は話の内容から、下記の3期にわけられます。

  1. 与太郎放浪篇(1巻~2巻)
  2. 八雲と助六篇(2巻~5巻)
  3. 助六再び篇(5巻~10巻)

それぞれで主人公が異なり、与太郎放浪篇と助六再び篇では与太郎(強次、助六再び篇では三代目 有楽亭助六)、八雲と助六篇では三代目 助六の師匠でもある八代目 有楽亭八雲(菊比古)と二代目 有楽亭助六(初太郎)が主人公です。

与太郎放浪篇では、テレビや漫才ブームに圧され気味だった昭和50年代。
八雲と助六篇は、太平洋戦争前から落語ブームが起こっていた昭和30年代。
助六再び篇は、昭和末期から平成初期のバブル景気からその崩壊直後を舞台としています。

与太郎放浪篇は、刑務所から出所したばかりの強次が八代目 八雲に入門を志願するところからはじまります。弟子を取らない方針だった八雲ですが、何かを感じたこともあって最終的には入門を許可。住み込み弟子として修行がはじまります。本章では、入門した与太郎が知ることになる師匠と先代(二代目)の助六、その娘・小夏をめぐる因縁の物語が描かれています。

八雲と助六篇では、若き日の二人が登場。繊細な八雲と明朗快活で天才肌の八雲。そんな対照的な二人と、その後たどることになる皮肉な運命の物語です。

助六再び篇で舞台は昭和末期に戻り、与太郎は真打へ昇進。その後、小夏と助六は結婚して自身に家族への強いあこがれがあることをカミングアウトします。そんなとき、過去の因縁や孤独への葛藤と闘っていた八雲は病気になります。進みゆく時代の流れに巻き込まれながら変化する彼らの人生、八雲が一度は葬り去ろうとした落語の行く末が描かれた物語です。

本作での八雲は、古典落語にこだわる昭和最後の大名人でありながらどこか陰のある人物として、二人の八雲は明朗快活で天才肌として描かれています。

絵柄も非常に繊細で、迫りくる老いと闘いながら落語に幕を下ろそうとする八雲の心情が迫ってきます。落語を描くというよりは落語家の人生を描いている作品で、その点では少女マンガらしい作品といえるでしょう。

先にも書いたように、2016年には与太郎放浪編が、2017年には助六再び篇がアニメ化。2018年にはドラマ化された本作。アニメ版では関智一さんが与太郎、石田彰さんが師匠の八雲役で出演。ドラマでは、それぞれ竜星涼さんと岡田将生さんが熱演して評判も上々でした。

アニメやドラマと合わせてみると、より一層楽しめます。

【作品データ】
・作者:雲田はるこ
・出版社:講談社
・刊行状況:全10巻