今年、上映されて話題を呼んでいる作品のひとつに『アリス・イン・ワンダーランド』がありますね。
もともとの原作である『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル)は、主人公の少女アリスが、三月うさぎや帽子屋にチェシャ猫、ハートの女王などに出会う、幻想的でちょっとシニカルな辛口ファンタジー。
映画しても原作にしても、不思議の国に迷い込むヒロイン・アリスですが、決して夢見る無邪気な女の子ではなく、好奇心が強くて、どこか辛辣な視線を持ち合わせた少女として描かれています。
実はまんがの世界にも、このようなヒロインは存在します。
知らない世界に胸を躍らせたり、無邪気な姿の奥で実は少々辛口なスパイスを潜めている。
(女の子って、むしろそういう生き物なのかもしれませんが)
さて、今回より数回にわたって、そんな「アリス」的な魅力を持つヒロインと作品を御紹介する連載「マンガの国のアリスたち」スタートです。
第1回となる今回ご紹介するのは、『Papa Told Me』(榛野なな恵)。
かつては「Young You」(集英社)に連載されており、現在は「コーラス」(集英社)にて、不定期連載として続いている作品です。
【作品紹介】
マンションでふたり暮らしをしている的場親子。小学生の女の子・的場知世(ちせ)ちゃんと、彼女の父親で作家の的場信吉。
ふたりが暮らす日常の中で出会う様々なエピソードを綴った物語です。
【みどころ】
お話の舞台は日本ですが、作品に登場する町並み、そして作品全体に散りばめられた風景や小道具には、イギリスのような雰囲気があります。
できたら、パッチワークのきれいなクッションに囲まれて、紅茶を片手に読みふけりたい作品であり、そのありようがまさに『不思議の国のアリス』につながるのです。
そして、主人公の知世ちゃんは、まさに現代の日本のまんがの世界によみがえったアリス。
好奇心が強くて、冒険好きで勇敢。読書が大好きでファンタジーの世界にドキドキしたり、日常の中に散りばめられた様々なスパイスを見つけるのも上手。
そして、知世ちゃんは、物事の奥に潜む真実を見通す鋭い視線を持ち合わせた賢い女の子でもあるのです。
お父さんとふたり暮らしの知世ちゃんを見て、ある大人たちは「母親がいないのはかわいそう」「ふたりだけじゃ寂しいでしょう」と言い出します。
そして、彼らは、お父さんに再婚を強引に持ちかけようとするのです。
知世ちゃん本人は、お母さんがいない自分をかわいそうだとは、全然思っていないのに。
家族が少ない暮らしは寂しいこともあるかもしれない。
だけど、孤独な時間が幸せなときもある。
「寂しいことだって素敵なこと」だと、知世ちゃんは知っています。
大人ですらときに気がつかない、甘さと辛さの混じったこの世界をすでに知世ちゃんは悟っていて、ときに大人よりも深い視線で、自分の暮らす世界を見つめているのです。
お父さんと一緒に暮らす日々。毎日出会う様々な出来事、様々な人たち、様々な物語。
楽しいことも寂しいことも、知世ちゃんにとっては、そのすべてが、楽しくて少しほろ苦い不思議の国なのです。
現在、こちらの作品は最新作の『Papa told me ~カフェで道草~』が発売中です。
知世ちゃんのワンダーランド、あなたも彼女と一緒に旅してみませんか?
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