19世紀の中央アジア。
エイホン一家はカスピ海のほとりにある小さな村で暮らしている。その跡継ぎとなる12歳の少年・カルルクが山一つ隔てた部族から迎えた花嫁・アミルは、カルルクより8歳年上の20歳だった…。
『エマ』で、ヴィクトリア朝を舞台に身分違いの恋を描いた森薫。
歴史的な風俗と丁寧なキャラクター描写、そしてロマンスに定評のある作者の新作『乙嫁語り』(株式会社エンターブレイン、「fellows!」連載中)。
その待望の2巻が刊行された。
アミルは半遊牧を行う部族の出身で、馬の扱いや騎射が得意。女の仕事である刺繍も器用にこなし、気立てもよい。完全無欠に見えながら間の抜けた一面を持ち、カルルクを案じることでは人後に落ちない彼女に、初めは戸惑いを隠せなかったエイホン家の人々もほどなくアミルを家族の一員として認めるようになっていく。
しかし彼女の実家では、アミルの結婚を解消しようという話が持ち上がっており、やがてそれはアミルとカルルクの家のみならず、町内まで巻き込んだ大騒動に発展していくのだった…。
『エマ』での恋の障害が「身分の差」であるなら、今回は「年齢の差」。
当人同士の意志よりも家同士の繋がりが重視されるため、多少の歳の差は普通だが、15、6歳が結婚適齢期とされる当時の感覚では20歳の娘はさすがに周囲から奇異の目を向けられる。おまけにアミルの実家で顕著に見られるように、女性の地位が決して高いとはいえず、時に物のように右から左へ嫁がされることもある。
しかしそうした暗い部分は作者の優しさ、そしてアミルの明るさに救われて前面に出てくることはない。この物語で主に語られるのは人々の風俗であり、ささやかな生活の喜びであり、アミルとカルルクの絆である。
日本人にはなじみが薄い、それだけにエキゾチックな興味を誘う地域を舞台に、作者の趣味と特有のユーモアが漂う。肩の力を抜いて読める、癒される作品。