人生いろいろ! 『気がつけばうちのごはんのにおいだった 完全版』でほっこりしよう!

きゅうりのぬか漬けや豚のしょうが焼き、切り干し大根や煮込みおでんなど、家庭の味が色濃く出る料理は数多くある。今回ご紹介する『気がつけばうちのごはんのにおいだった 完全版』は、12のおかずを軸に、人間の日常の不満や心の機微を描いた作品だ。

ネットカフェに住みながら「ぬか床」だけを持って日雇い仕事をする女性、正社員しか定食を食べられない会社で働くパート社員、心を病んだ母親のためによその家では決して食べ物を口にしない少年、食べないとわかっていておかずに必ずひじき煮を出す母親、ゲン担ぎのしすぎで食べ物の味がわからなくなった家族など、実際にあった話も含めて短編漫画が12作収録されている。

個人的に好きなのは、お金を貸した妹があまりにも感謝や反省の色が見えないので、無人の野菜売り場で1円で買った茄子を持ってくるという姉のエピソード『茄子の味噌炒め』だ。
1円と100円ではたいして違いがわからないだろうと、妹に1円で盗んできた茄子を渡し続ける姉。
しかし意外なオチが待っていておもしろい。

また、新人にわざと破裂しやすい冷凍コロッケを渡して「下手」だの何だのと文句を付けるベテランオバサンが、実は良い人だったという『コロッケ』も、人間模様が詳細に描かれていて好感が持てる。

本作に登場するのは決して裕福と言えない家庭や個人が多いが、最終的に手作りのおかずでほっこりと締めくくられるので読後感はいい。
不満を抱えた女性が主人公であることが目立つのは、主婦向け雑誌に掲載されていたからだろう。

家庭料理というのは代々受け継がれてきたりするものだが、においだけでも「我が家」を感じられるのは素晴らしいと思う。仕事が終わって家に近付いた時、今日の夕飯は何だろうとにおいをかいだ経験のある読者も少なくないのではないだろうか?

出てくるおかずはみんな質素でシンプルなものばかり。しかし栄養満点だったり、料理しやすかったり、安価だったりと、主婦には嬉しいものが多い。
本書を読んだ後には、何となく料理をつくってみようかな、とか、お母さんのあれが食べたいな、などと思ってしまう。やはり食は幸せな気持ちをもたらすものなのだと実感した。

【作品データ】
・作者:草野誼
・出版社:ぶんか社
・刊行状況:全1巻