恋は女の子の『MAGIC』! 積極的にいこう!

最近、テレビなどで手品・奇術といったマジックの類を見かけなくなった。かつては結構流行っていたのだが、これも時代の流れだろうか。

今回ご紹介する短編集『MAGIC』は、『MAGIC〜王子様は魔法使い!?〜』が表題作。東雲(しののめ)奇術団というマジックショーの集団が各地を回っている、本格的なマジックショーの世界が舞台だ。

主人公の少女・茉茶(まちゃ)が憧れるマジック界の王子・ルネ様。勘違いから奇術団に連れて来られた茉茶が、恋する王子様のために懸命に頑張る物語である。頑張り屋でちょっとミーハーな茉茶だが、マジックに命を懸けているルネ様を見て恋心を新たにする。

本作には5つの短編が収録されており、絵描きになりたい少年と幼馴染を描いた『エンゼルフィッシュ』、不思議な夢の世界が現実になる『悠久恋歌』、ダンサーの夢を負う少年とバレリーナを諦めそうな少女の紡ぐ『1/2』、幼馴染から抜け出したいもどかしさを描く『Endless Summer』で構成されている。

どの作品も、主人公の女の子が積極的なのが印象に残る。しかし肝心なところで邪魔が入ったり、タイミングがズレてしまったり……。それでもメゲないのが恋する女の子! 勘違いしたりされたりしながらも、恋を前進させていく。

個人的に好きなのは、ダンサーの夢を負う少年が幽体離脱してバレリーナの少女に憑いてしまう『1/2』だ。同じダンスという夢でも、少年は前を見つめ、少女は過去のトラウマに引きずられている。最終的に夢追う少年のおかげで少女はトラウマを脱却できる、というサクセスストーリーだ。

また、5作中では異色な『悠久恋歌』も良い。
ある日、いつも見る不思議な夢が、異次元で繋がると知る少女。そこでずっと会いたかった青年に会うが、次元を越えたせいで声を失ってしまう。それでも必死に自分の思いを伝える健気さは、強さも兼ね備えている。

絵のタッチは可愛らしく、主人公がやや天然っぽいところもポイント。
一人で盛り上がって、一人で誤解して落ち込んで、それでもまた顔を上げる姿は、「恋愛って素敵だな」と思わせられる。

短編集としてきれいにまとまっているので、読み進めやすいのも本作を推す理由だ。
恋愛にまっすぐな女の子はひたむきで可愛らしい。弱いけれど強く、儚いけれどしっかりと地に足をつけている。新しい作品ではないが、「女の子の方が積極的でもいいじゃない!」というコピーがつけられそうな良作揃いである。

【作品データ】
・作者:saco
・出版社:オフィス漫
・刊行状況:全1巻