『Fairytale』は人間味あふれるおとぎ話!

童話と言えば、「赤ずきん」「白雪姫」「人魚姫」などが有名どころだろうか。今回ご紹介する『Fairytale』は、いくつかの童話の主人公たちが絡み合った、猫と狼と吸血鬼が登場する不思議なオリジナルストーリーである。

とある時代のとある国で、ネズミの駆除で裕福になった猫(ヒトの形に猫耳の姿)たち。しかし、かの有名なハーメルンの笛吹き男によってすべてのネズミがいなくなってしまったため、猫たちの仕事はなくなり、国の外へ放り出されてしまった。

住む場所も食べるものもなくした猫・ノエルは、吸血鬼の少女・ロゼに拾われる。広いお城でネズミの駆除を依頼されるが、実はお情けでネズミ駆除猫の称号を得たノエルは、ろくにネズミを捕まえられないのだ。それでもペットとして吸血鬼の城に住むことを許されたのだが……?

可愛らしいタッチの画風で、ほのぼのとしたペットライフが描かれるのかと思いきや、物語は徐々に不穏な方向に進んでいく。

おとぎ話というと、最後は王子様と幸せになるというのがお約束だろう。しかし本作には、いわゆる「王子様」は存在しない。それでも、愛情に満ちた絆がさまざまな形で存在しているのだ。ノエルとロゼ、ロゼと兄のクリフ、この兄妹の執事、白雪姫とその騎士──。

いろいろな童話の主人公を登場させることで不思議な世界観ができあがっており、読み手を飽きさせないハラハラドキドキに満ちている。人狼やグールなどの悪役も完全な悪ではなく、それぞれに事情を抱えているのだ。それはもはや童話というよりは、大きな愛の物語である。

シリアスな本編に入る前に4コマ漫画が差し込まれていて、そちらはコメディタッチで可愛らしい。
最終的には、少年少女であるキャラクターの成長物語として締めくくられているが、説教臭くはなく、切ないながらもホッと胸を撫で下ろして読み終えられるだろう。

弱いものは虐げられ、食うの食われるのという世界でもあり、現代社会の縮図のようにも捉えられる本作。王子様は現れないが、いずれ王子様になるであろうキャラクターたちを見ることができる。
自分の殻を破った時、それは一つの成長となるのだ。
ぜひ童話の主人公たちのアナザーストーリーとして読んでもらいたい。

【作品データ】
・作者:江口カイム
・出版社:ビーグリー
・刊行状況:全1巻