『わが家は駐在所』だから人を救う!

山間の小さな村・登呂林(とろりん)村は、銀世界が広がり、澄んだ青空と空気、子供たちの笑い声の響くのどかで平和な場所。都会から引っ越してきた主人公・萩原 太一は駐在さん。妻の渚は、男女の双子の子供を生んで婦警こそ引退したものの、正義感の強いお母さんである。
若い人はみんな村を出ていくため、二人の子供たちは近所の人気者だ。毎日あちこちの家で、まるでローテーションのように面倒を見てもらっている。

東京からIターンで帰ってきて、農業に失敗して妻に暴力を振るう夫。過去の悪事がたたって誰にも信じてもらえない女性。夫に先立たれて以来誰とも付き合わず、孫に似た犯罪者をかくまう老婆。
この3話で成り立っている『わが家は駐在所』は、田舎特有のまったりとした空気をまといながらも、人間の優しさや猜疑心、噂に振り回される様子などが描かれている。

田舎の人は都会からの移住者に冷たいと言われるが、萩原家は引っ越して3ヶ月で登呂林町に馴染むことができ「駐在さん」と呼ばれて人気者だ。登呂林の人々も優しく穏やかで、いつも誰かを思いやっている。そんな小さな集落の中で、ささやかな事件が起こり、渚や太一が解決していく様子には、心を打たれるものがある。

都会では人々は他者に関わらず、警察も事件が起きてからしか動いてくれない。登呂林ではみんながお互いをいたわりあって、駐在所に来ることもためらわないし、太一も出動を渋らない。各エピソードを通じて人の温かさを中心に、トラブルがありつつもハートフルな結末が描かれている。

個人的には第3話の、犯罪者をかくまうワケアリの老婆の物語がいいと思う。外では頑固なお婆さんだが、犯罪者をも心変わりさせるほどに優しい気持ちも持っている。周囲から嫌われていると本人は思っているが、実際は遠巻きに心配されているのだった。

田舎の人は決して不親切ではない。ただ、そこにはそこのしきたりがあって、入っていくには都会の振る舞いでは通じないこともあると知るべきなのだ。ぜひ本作を読んで、住人の少ない町なりの温かい気持ちを味わって欲しい。ひとときの田舎暮らしが味わえるだろう。

【作品データ】
・作者:おおにし真
・出版社:A-WAGON
・刊行状況:全1巻