百姓貴族 (1) (ウィングス・コミックス)

「水がなければ牛乳を飲めばいいのよ!」荒川弘『百姓貴族』

百姓貴族 (1) (ウィングス・コミックス)【あらすじ】

「農家の常識は社会の非常識」!?マンガ描きになる前は、北海道で七年間、農業に従事していた作者・荒川弘。元・プロ農民の人気漫画家が明かす、知られざる農家の実態とは?日本初・農家エッセイ漫画が誕生!

【みどころ】

現在、日本の食料自給率は39%。低迷を続けるその数値は、日本人の食生活やライフスタイルの変化、輸入への依存という現実を浮き彫りにしているともいえます。しかし、都道府県別に見れば、食料自給率200%(2008年時点)を超える地が日本列島にもまだ残されていました。それが北の大地・北海道です。

荒川弘の『百姓貴族』は、北海道で農業に従事する人々の生態を、コミカルに描いたギャグエッセイ漫画です。代表作『鋼の錬金術師』で一躍売れっ子漫画家になった作者ですが、その実家はまさしく生粋の農業者でした。(色んな意味で)壮大な北海道の自然で、牛を飼い、野菜を作り、クマに怯え、エゾシマリスに翻弄される生活は、農業の楽しさもハードさも伝えてくれます。

例えば、作中で作者たちは、家畜や農作物が人間側の都合に振り回される場面に、しばしば直面します。生産過多で余った牛乳を政府の指示で捨てたり、障害を持って生まれた仔牛を、牧場の経費削減のために処理場へ送ったり、という作中のエピソードは、まさに農業の現場から発せられるリアル。

本来、豊かな生活を考える上で、農業従事者への理解と食に対する感謝の心は欠かせないものです。しかし、それを忘れた一部の消費者に対し、「食料供給ストップして、あいつら飢え死にさせたろかいと思います(はぁと)」という作者の台詞は、供給者の本音を代弁しているようではありませんか。

しかし、作中でそんな説教くさい雰囲気は皆無。「風呂上がりにパンツ一丁で真冬の牛舎に行く父」などの身内ネタも含めて、全ページ捨てネタなしの爆笑エッセイに仕上がっています。少なくとも『鋼の錬金術師』コミックスが発売されるたび、巻末おまけ4コマのギャグを楽しみにしていた 方なら、存分に楽しめるのではないでしょうか。

現在、作者は『週刊少年サンデー』で、同じく農業を扱った漫画『銀の匙 Silver Spoon』を不定期連載中です。本作も2/25に待望の最新刊2巻が発売されました。「元プロ農民、今はプロ漫画家」の描く世界を通して、日本の農業を考えてみるのも面白いかもしれません。

【作品データ】
・作者:荒川弘
・出版社:新書館
・刊行状況:2巻まで(続刊)

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