【試写会レビュー】26年ぶりの名作リメイク! 『ベスト・キッド』

ひ弱なイジメられっ子が“師”と出会い、格闘技を身につけながら成長していく――いまや国民的ボクシング漫画となった『はじめの一歩』など、こうしたモチーフは少年漫画の王道といっても良いのではないだろうか。

今回はそんな題材を扱った名作映画『ベスト・キッド』リメイク版の試写会に行って来たので、8月の一般公開に先がけてレビューをお届けしようと思う。

■『ベスト・キッド』とは
1984年に第一作が公開されたアメリカ映画。原題は『The Karate Kid』。西洋人の主人公と東洋武術(空手)との出会い、師弟の絆、奇妙な修行方法(後述)、ヒロインとの淡いロマンス、肉体だけでなく人間としての成長、クライマックスの危機的なシーンで登場する一度きりの“必殺技”などが広く受け入れられ世界中で大ヒットした。以後10年あまりにかけてシリーズ4作品が公開。一般にはパート3までが有名である。

 

■リメイク版『ベスト・キッド』あらすじ
母の転勤でアメリカから中国へ引っ越すことになった12歳のドレ。さっそく転校先でガールフレンドのメイと仲良くなるが、同時に粗暴なカンフー使いのチョンから暴力をふるわれる日々がはじまった。

そんなある日、暴行の現場を1人の男に救われる。チョンたち6人のカンフー使いを圧倒的な技で撃退したのは、ドレのマンションで管理人をつとめるハンだった。無愛想で冴えないハンが実はカンフーの達人だったのだ。

争いを好まないハンは、ドレと共に仲直りのためチョンのカンフー道場へ話し合いに行く。だがチョンの師匠は気性が激しく、弟子が倒されたことに納得できず決着を執拗に迫ってきた。やむなくハンは「今度のカンフートーナメントで決着をつけよう」と約束し、ドレを鍛えることにした。

意味のわからない奇妙なトレーニング方法、黄色信号がともるメイとの仲、そして迫るトーナメントの開催日。勝って自分の力を証明するか、逃げ出してイジメられっ子に甘んじるか――少年・ドレの挑戦がはじまる!

■みどころ&感想
1984年の『ベスト・キッド』(紛らわしいので以後「初代」と呼ぶ)が四半世紀ぶりに蘇った。もちろん初代からスタッフ&キャストは一新。主人公を演じるのは名優ウィル・スミスの実子であるジェイデン・スミス。カンフーの師匠を演じるのはジャッキー・チェン。往年のアクション映画ファンにとってはこれだけで感動モノの配役だ。

初代はアメリカを舞台に空手を習うという設定だったが、リメイク版の今作は本場の中国でカンフーを習うことになっている。しかしストーリー骨子にほぼ変更はなく、勝手な変更がくわえられているわけでもない。オリジナル作品へのリスペクトを忘れない姿勢には好感がもてる。

たとえば『ベスト・キッド』シリーズの定番となった“奇妙な修行方法”にもオマージュが見られる。初代を見ていない人でも「ワックスかける、ワックス取る」というフレーズは聞いたことがあるかもしれない。なんでもない日常の動作を繰りかえすことで、知らない間に武術の攻撃・防御が身についているという発想だ。初代の主人公、ダニエルもこうして空手の技をマスターしていった。

今作はこの部分が「ジャケット着る、ジャケット脱ぐ」にアレンジされている。いつまで経ってもカンフーを教えてもらえないドレが「こんなの意味ないから帰る」と言い放った時、ハンはジャケットの動作をさせながら打撃を打ち込む。いつの間にか達人の攻撃をさばくほど上達していたドレは感激し、ハンに全幅の信頼をよせるようになる。同時に、ある事情から人生に後ろ向きだったハンも、素直でひたむきなドレを気に入っていく。単なる師弟ではなく“父と子”に近い絆が作品テーマのひとつであったが、この部分もまったく損なわれず感動を与えてくれる。

もちろんアレンジをくわえることで、より完成度をアップさせたところもある。その最たる改善点は決戦パートの直前、ドレとハンが互いの絆を完全なものにするシーンだ。初代の師匠(ミヤギさん)はどちらかといえば仙人のように達観したキャラクターで、その人間臭さを深く知るには続編『ベスト・キッド2』を待つほかなかった。対して、ジャッキー演じるハンは大きなトラウマを過去に抱えており等身大の人間臭さが漂っている。そんな中年のトラウマを少年のドレがどのように解きほぐすか……この感動はぜひ劇場で味わってほしい。事実、試写室でもすすり泣く声が聞こえてきたほどである。

さて、アクションシーンはどうかといえば、こちらはイメージががらりと変わった。初代はいい意味で“もっさり”した感じが強く、本当に空手の試合で見られそうなリアリティあふれる格闘だった。今作はジャッキーのスタントチームが全面プロデュースしたことで、ハイスピードの格闘アクションに変貌をとげている。

目にもとまらぬ高速キックあり、サンボばりの飛びつき関節技あり、大技のフランケンシュタイナーまで飛び出すカタルシス抜群の展開だ。「少年ばかりのカンフー大会でそんな技が使えるかよ」というツッコミはさておき、1980年代のジャッキー全盛時代を思い起こさせる技のキレは圧巻。これらを体当たりで習得したジェイデン・スミスの努力と才能には頭が下がった。天才子役としてだけでなく、マーシャルアーツ(武術)分野でも大成できるのではないだろうか。

このほか『ラストエンペラー』以来20年ぶりとなる紫禁城での映画撮影、世界遺産・武当山や万里の長城での修行エピソードなど、中国ならではの雄大な舞台スケールも感動ストーリーに花を添える。あえて苦難を承知で「オール中国ロケ」を敢行したスタッフの熱意は無駄になっていない。これだけでも十分に見る価値アリだ。

とにかく全編を通して見どころだらけでスキがなく、2時間20分という上映時間も気にならなかった。リメイクや続編といえば期待外れの作品もわりと見てきたが、この新生『ベスト・キッド』はオリジナル(初代)を見た人、初めて触れる人どちらにも文句なしにオススメできる。北米で初登場1位を獲った実績も納得だ。

オリジナルに敬意をはらい、オリジナルから学び、オリジナルに創意工夫をあたえ、ある部分ではオリジナルさえ凌駕した――まさにそう評したい。

公開スケジュールは8月の7日・8日に先行上映をした後、8月14日から全国ロードショーとなっている。26年前に少年だった人なら、いまや当時と同じ年齢の息子がいてもおかしくない。夏休みに親子で劇場へ出かけて「パパも昔、この映画を見たんだよ」と教えてあげるのもいいだろう。

■公式サイト(予告編動画あり)
http://www.bestkid.jp/


■余談

まだ気の早い話だが、この「ドレ&ハン」師弟コンビをこれで見納めにするのは実に惜しい。設定的に『ベスト・キッド2』をリメイクするのは無理としても、直接の続編にあたる『ベスト・キッド3』ならば不可能じゃない。期待するだけなら……いいよね?

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