股間のマグナムで成り上がれ!男の生きざまが輝く『杉作』

いきなりちょっと下ネタ路線なんですが、「俺の股間のマグナムが火をふくぜ!」なんて言い回しありますよね。マグナム=男性のシンボルという比喩で。今回はそんな股間のマグナムを比喩じゃなく、本当に実体化しちゃった男の物語『杉作』をご紹介したいと思います。

主人公の杉作は天涯孤独で、田舎ヤクザの下っ端として働く青年。死んだじいちゃんの「男なら伝説を作れ」という言葉を胸に刻みながら、まだ何も成せず鬱屈した日々を送っています。そんな彼に突然の転機が……ある朝起きてみると、いきなり股間から黒光りする本物の拳銃「44マグナム」がそそり立っていたのです! どんな敵でも一発で撃退できる武器を手に入れた杉作は田舎を飛び出し、伝説の男になれるのか?

こうして始まる笑いあり、ラブロマンスあり、陰謀とアクションありな波乱万丈のストーリーが『杉作』です。

最強の股間マグナムを引っさげて上京した杉作は、日本社会の表と裏を支配する大権力者・志武羅 剣(しむら けん)になぜか気に入られて部下になるよう勧誘されます。実は志武羅は、織田信長やナポレオンといった英雄はみんな「股間に実体化した武器」を持っていたと独自の研究で調べ上げていました。ひょんなことから杉作の股間マグナムを目撃した志武羅は彼こそ伝説の男になれると確信し、自分がもつ巨大な権力と資産を継がせようと考えたわけですね。

ここからストーリーはさらに加速。志武羅の後継者になるということは、日本の支配者になるということ。田舎から出てきた若造なんぞにトップの座を渡すか!と裏社会の激しい権力争いに杉作も巻き込まれていきます。

この手の裏社会が絡んだ話って陰惨になりがちですが、本作はそのあたりバランスのとり方が絶妙だと感じました。なにせ中心にあるネタが「股間のマグナム」だから根本的にはギャグなんです。杉作のマグナムはたしかに強力なものの、性的に興奮しないと武器化できない、全弾発射した直後は萎えてしまう(まさに比喩通り)など情けない弱点もいっぱい。生きるか死ぬかの瀬戸際で「ウオオォー!井川はるかー!」なんてグラビアアイドルの水着姿を想像してマグナムを勃たせようとする彼の姿はシュールすぎて笑えること間違いなしでしょう。

そして笑えたかと思えば、後半では畳み掛けるように男同士の意地がぶつかり合うハードボイルド展開になってアクションも増量。全4巻とは思えないほど濃密な読みごたえです。

魅力的な脇役キャラが多いせいで主人公の存在感がやや薄めになったかな?と思わなくもないですが、「股間のマグナム」という出オチっぽい題材をこれほどの痛快娯楽アドベンチャーに仕上げた実力は見事。作中あちこちに出てくる「股間が熱いぜ」「ネズミの人生だけはごめんだ」といった男性ホルモン全開な名言が、読んでいるうちにこちらの心まで沸騰させてくれます。

『69デナシ』『内線893』など、男のハードな生きざまを描き続ける漫画家・山本康人氏の真骨頂ともいえる『杉作』。元気をチャージしたい人は、ぜひとも読んでみてください!

【作品データ】
・作者:山本康人
・出版社:CoMax(連載時は講談社)
・刊行状況:全4巻