日本の国技であり、『ああ播磨灘』『火ノ丸相撲』『バチバチ』など読み応えある漫画作品にも恵まれた「相撲」。今回はそんな中でも、特にユニークな設定で相撲のおもしろさを描ききった『ガチンコッ!』を紹介したい。
主人公の一人は、現役力士・栃の嵐。横綱昇進は確実と言われる強さを誇る大関だが、性格は下品で素行も悪く、関係者が頭をかかえるほど。もう一人の主人公は、栃の嵐が所属する相撲部屋の隣家に住んでいる男子高校生・赤城 まこと。こちらは気弱でガリガリ、学校でのいじめに耐えられず自殺寸前に追い込まれていた。
そんな対象的な2人の運命が、ある日の夜に交錯する。優勝祝賀会を終えてビルの壁に立ち小便をする栃の嵐、ちょうど同じビルの屋上には遺書を握りしめて飛び降りようとするまこと──栃の嵐は落下してきたまことと激突し、なんと人格が入れ替わってしまったのだ……!
こうして始まる、最強力士と最弱高校生の人格交換ストーリーが本作『ガチンコッ!』。意外な設定だが実は王道のスポ根漫画で、とてもアツい内容に仕上がっている。
先に病室で目覚めたまこと(中身は栃の嵐)は、学校に復帰して自分がいじめられていた経緯を知る。まことが強くなりたいと入部した相撲部で、一部の上級生によるリンチじみたいじめが横行していたのである。ところが体はモヤシ少年でも、退院後の人格は現役最強力士。まことはボロボロにされながらも不屈の闘志と鍛えた技で立ち向かい、いじめを克服するどころか相撲部のエース格に上りつめて、他校の強豪選手からも注目される存在となった。
ここからは最高潮の土俵ドラマが展開され、力と技、意地のぶつかりあいが文句なしに興奮させてくれる。
また、アクションシーン以外の特色として、2人の主人公の「心の成長」も見逃せない。もともと栃の嵐は圧倒的パワーに恵まれていたが、非力なまことの体で大型選手と対峙するうち、以前は気づかなかった「相撲の奥深さ」を知っていく。栃の嵐の姿で意識を取り戻したまことも、自分のガリガリな体が強豪選手たちを打ち破るのを見て、大切なのは「逆境に負けない心の強さ」だと学ぶ。そうやって少しずつ変わっていった両者が本来の肉体に戻ったとき、どうなるか……ネタバレになるので詳しくは伏せるが、終盤の展開に思わず感動してしまう人も多いだろう。
濃密な物語とアクション、お色気やギャグシーンまで詰め込みながら全5巻という手頃なボリュームで完結しており、読後感はスッキリの一言。よほど流血シーンが苦手な人でもないかぎり、広くおすすめしたい痛快&ハイクオリティな逸品である。
【作品データ】
・作者:山下てつお
・出版社:ビーグリー(連載時は講談社)
・刊行状況:全5巻