【医療マンガ特集】50歳新人看護師の奮闘を描いた『ナースのチカラ~私たちにできること 訪問看護物語~』

超高齢化社会に入っている日本。このサイトをご覧になっている方の中にも、両親や祖父母を介護なさっている方もいらっしゃるかもしれませんね。余命がわずかだと告知されたとき、「最後はお家で死にたい」と思う患者は意外と多いものです。

そんな患者、家で最期を看取ることに決めた家族に寄り添う存在が訪問看護師。その現場を描いた作品が、広田奈都美先生の『ナースのチカラ~私たちにできること 訪問看護物語~』です。

本作は先に連載されていた『おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~』の新章という位置づけになります。看護師が主人公の医療マンガは多くあるものの、いずれも病院看護師をテーマにしているので、訪問看護の実態を知ることのできる貴重な作品といえるでしょう。

主人公は専業主婦の幸代。日常生活が送れなくなった義母の介護を一手に引き受けています。いつも家族に対して我慢をしてばかりで、介護をしながら何かが満たされない日々。そんな彼女は、いつも訪問看護にきていた持田さんに憧れ「私も看護師になれれば」と思うようになります。

実際、事務や営業など他分野の仕事を経験してから看護の道に入る人は珍しくありません。主人公のように40代後半~50代で看護学校へ入学する人もいれば、60歳で大学の看護学部に入る人もいます。

作者の代表作には、この他『スーの家』や『れんげ*たんぽぽ』などがあります。いずれもかわいらしく優しさを感じる絵柄が特徴です。また、看護師でもあり有名な看護師の転職支援サイトなどでも看護に関するマンガを連載しているので、現役看護師ならではの視点がストーリーにも反映されている点もおすすめポイントといえるでしょう。

主要キャラクターも個性が強く、それぞれに焦点があたったエピソードがあります。それぞれの視点で「人間の尊厳を保つためにナースができることとは何か」が描かれているので、誰もが共感できる構成となっています。

特に心に残ったのは、実習で担当した患者が「92歳でヘルニアの手術を希望する理由」を、主人公が懸命に力説していた場面です。看護の定義というのはそれぞれありますが、この場面に看護とは何かというのが凝縮されているのではないでしょうか。

この作品には、是非近い将来のドラマ化・アニメ化を期待したいと思っています。また、自宅で介護に頑張っている家族、看護師になるために日々学業に励んでいる学生、医療職を夢見るすべての人に、一読をおすすめしたい作品です。

【作品データ】
・作者:広田奈都美
・出版社:フォアミセス(秋田書店)
・刊行状況:既刊1巻