不動産業者は、昔「千三つ屋」と呼ばれていました。辞書に載っているのは「1,000の言葉のうち真実は3つ」が転じて「うそつき」です。ちなみに、不動産業界では「1,000ある物件のうち、希望条件を満たすのは3件しかない」もしくは、「成約率が0.3%(3/1,000)」という意味で使われています。
バブルの頃は事故物件の説明なく土地を売ったり、喫茶店をやりたい人に喫茶店ができない建物を売ったりというようなケースもありましたが、実際のところはどうなのでしょうか。そんな不動産業者の裏側を描いた作品が、大谷アキラ先生の『正直不動産』です。
舞台は東京の吉祥寺にある不動産会社、登坂不動産の営業である長瀬財地。彼は売り上げNo.1の凄腕で、重要事項はしっかりと説明するものの、本当に重要な部分はぼかして契約をとっていく営業スタイルを取っていました。
しかし、地鎮祭で石碑を壊したことをきっかけとして、これまでであればうまく隠せていたこともまったく隠せない、つまり正直にならざるを得なくなってしまった主人公。そんな長瀬を主人公として、不動産業界の裏側を痛快にぶった切る皮肉喜劇です。
作中では実際にレオパレス問題やサブリース問題など、最新の不動産事例をテーマとして取り上げており、圧倒的なリアリティを持って物語が展開していきます。不動産取引は専門用語も多いため非常にわかりにくいというイメージがありますが、業界の事情や裏側が綿密に描かれている最高傑作といえるでしょう。
「うそをついているときと、本当のことを言っているときでは顔つきがまったく違う」といいますが、本作の主人公を見るとそのあたりの描写がうまくなされています。また、正直なことしか言えなくなったことで営業成績が落ちた主人公の苦悩、それを支える周囲の心理状態も絵柄に反映されています。
巻末には、原案者でもある夏原武氏の不動産にまつわるスペシャルエッセイがあるので、こちらも読み応えがあります。これから不動産購入や投資を考えている人は、手にとって読んでみてください。
【作品データ】
作者:大谷アキラ
原案:夏原武
脚本:水野光博
出版社:小学館
刊行状況:既刊7巻
