歌劇学校を舞台に女性同士の絆を描く青春物語『淡島百景』

「百合」とは、女性同士の恋愛や特別な結びつきを描くジャンルのことです。その中で、特に少女同士の強い絆は「エス」(S、シス、スール)と呼ばれ、嫉妬や羨望、憧れ、眺望、挫折、後悔、過去への贖罪などさまざまな物語が紡がれます。

そんな少女たちの青春物語を描いた作品が、今回ご紹介する『淡島百景』。LGBTに関する作品で定評のある志村貴子先生が物語の作者です。彼女の繊細なタッチの絵柄が、登場人物の繊細な感情をより際立たせています。

舞台となるのは淡島歌劇学校。「歌劇学校」というだけあり、舞台に立つことを夢見ている少女たちが全国各地から集まってきます。ちょうど宝塚歌劇団のようなものと考えるとわかりやすいでしょう。

ミュージカルスターを夢見て入学してくる少女、一緒に通えなかった親友の思いを持ち続けて学んでいる少女、圧倒的な才能を持った同級生を追い詰めて退学させたことをいつまでも後悔している教師、そんな生徒たちを眺望の眼差しで追いかける男の子。

物語はそれぞれの視点で描かれ、そのすべてが胸をきゅっと締めつけます。その内情はなんとも言い表しようのない苛烈なものです。彼女たちの持つ後悔の念や自責の念、諦観の念やマイナスの感情を持ちながら、今を生きていくさまが描かれています。

それぞれのエピソードがオムニバス的に描かれているので、少しわかりにくさを感じる部分もありますが、そのどれもが舞台となる淡島歌劇学校を語る上で大切なピースです。また、登場する人物の誰をみてもその気持ちに没入することができ、時には怒りながら、時には涙を流しながら読むことができる作品となっています。

【作品データ】
・作者:志村貴子
・出版社:太田出版
・刊行状況:既刊3巻