夢か家族か恋人か?!『ラバーズ・コンチェルト』で何を掴む?

憧れのウィーンの楽団からオファーを受けたバイオリン奏者の涼子。両親が再婚だというだけで一流の音楽家を輩出する名門校を不合格になり、資金不足で海外留学も諦めて、コツコツ演奏を続けてやっと掴みかけたチャンスだった。しかしプロポーズされた恋人に誤解され、その時に急に鳴った電話で両親の訃報を告げられる──。

何もかもうまくいかないような人生で、ようやくチャンスを掴みかけた頃に一時実家へ戻った涼子は、再婚相手の娘である妹・優花と久々の再会を果たすが、相変わらずうまくやっていけそうにない。七歳の弟は花屋の両親の仕事を手伝っていたため、花のことは涼子よりもずっとよく知っていた。そんな二人を残してチャンスを掴むべきか迷うが、一時的に再開した花屋業でいろいろな経験を重ねる。

優花と涼子の間にあるしこりの原因は実は涼子の過去の振る舞いにあったこと、両親の心からの願いなど、徐々に明かされる家族の真実。再婚相手の娘同士と、二人の新しい息子の三人で、どうすれば幸せを紡いでいけるのか?恋人との仲はどうなり、両親が愛する子供たちに本当に残したかったものが何なのか──それらがテンポよく展開していくので、非常に読み進めやすい。

恋愛と夢を天秤にかける少女漫画は多いが、そこに家族という第三の要素が絡むのが本作の醍醐味と言える。やや重いテーマでありつつも、周囲の優しい人に恵まれて涼子の視界が開けていく様子は清々しい。優花が自分の夢を諦めた理由や、両親が三人の子供に残した大きな愛情など、今になってようやくわかりあえる絡んだ糸が解ける様も優しく感じる。

恋愛か夢か家族か……そんな三択に意味はない。ようやくわかった涼子の新しい人生に、読後は祝福を贈りたくなるだろう。愛する人を失ってからわかる優しさや感謝を、今度こそ失わないで生きている人に伝えて欲しい。新しい家族で、「ラバーズ・コンチェルト」を奏でていけることを願うばかりだ。

【作品データ】
・作者:杏崎もりか
・出版社:A-KAGURA
・刊行状況:全1巻