7つの短編オカルト・サスペンス『瞳で殺せたら』でハラハラ!

もしも超能力が使えたら、自分が神に仕える血縁者だったら、幼い頃に亡くした両親の記憶がなかったら、愛する人に不審な素振りを見つけたら……?そんなオカルトめいた状況がベースにある、本作『瞳で殺せたら』に収録されている7つの短編作品。事件の始まりは唯一の縁者の死だったり、逃げるように田舎に移って始めた新生活だったりする。一見よくあるパターンだが、そこからどう分岐していくのかが見ものの作品を見ていこう。

かつて自分のせいで家出をしたと思い込んでいた姉を探し、ようやく居場所を掴んだかと思えばそこにいたのは赤の他人……という『あなたが欲しい』。樹海トリックで秀逸なドラマになっている。『約束の日』は玉の輿に乗った優しい姉と20歳で死ぬと信じている妹の確執を描いた祟りモノ。

表題作の『瞳で殺せたら』は、亡くなった母親が枕元に立った日から起こる不思議な事件を追う。『サイレント・グリーン』では、いわくつきの山荘に引っ越して平穏な日々を送る女性が、夫の浮気を疑って真相に辿り着いていく物語だ。鬼の一族という珍しくはないモチーフの『天馬の鬼』は、混血の生き残りである主人公に迫る危機をうまく描いている。

海神さま信仰のある島で育った女性のが自分のルーツを辿る『深海魚』は、両親の死や犯人の意外性が巧妙だ。『緑夢』では記憶が薄くしかない別荘で自分の過去を探る女性が、思わぬところで出会った男性と過去を追う物語になる。

モチーフは鬼や幽霊、祟り、逆恨みなど珍しいものではないが、うまく新鮮味のある切り口で飽きない工夫がなされているのが見どころだ。誰かの死がきっかけに物語が始まるのもお決まりだが、そこにもドラマがあり一筋縄ではいかない。

うまくハッピーエンドに持っていくため読後感も悪くなく、ハラハラして読み進めながらも最後には安心して読み終えることができるだろう。怖いのは苦手だけれど、不思議なものには惹かれるという読者にはもってこいの作品である。もちろん、単純なホラーには慣れてしまった方にもオススメしたい。

【作品データ】
・作者:はざまもり
・出版社:ビーグリー
・刊行状況:全1巻