都会育ちの四十男、田舎暮らしは驚きの連続!『なんでオレがこんなこと』

多くの人が仕事や便利さを求めて都会へ移り住み、地方の過疎化が問題になっている現代。とはいえ大自然への憧れは今も強いようで、テレビや雑誌では「田舎で楽しく第二の人生」といった特集がよく組まれている。今回は田舎暮らしをユニークな視点でエッセイ漫画に仕立てた『なんでオレがこんなこと』を紹介したい。

主人公は作者本人。漫画家だが「ほぼ無職」「負け犬」を自称する40歳すぎの独身男性である。都会で生まれ育った彼がひょんなことから徳島県の限界集落に移住することになり、自然いっぱいの中で野生動物を食べ、経験ゼロから米作りに挑戦し、猫を飼い、地元の人々と触れ合う。そんな日々がユーモラスに描かれている。

この作品がおもしろいのは、テレビや雑誌のように田舎暮らしをステレオタイプ的には扱わず、楽しい面、苦痛な面の両方を実体験まじえてリアルに描写しているところだろう。

まず楽しそうな面は自然が与えてくれる豊富なジビエ(野生の鳥獣)料理。作者は結構ワイルドな生活の素質があったらしく、なんでも自分で捌いて食べる。ご近所さんからもらった小鹿は解体してソテーに、田んぼで捕獲したマムシを酒に漬ける、害獣として駆除されたイノシシの肉に舌鼓を打つなどなど……。変わったところでは「車に轢かれて死んでいた野ウサギ」「猫が獲ってきた小鳥」まで調理して食べており、どれもなかなか美味しそうだ。

一方、田舎独特の人間関係に苦心するエピソードもかなりのページ数が割かれている。その最たる例が稲作にチャレンジした時の水利権だ。米作りはとにかく水の確保が最重要。しかし移住者である作者の田んぼは下流に配置され、嫌がらせのように直前で水がせき止められていた。やむなく水流を分けてくれるよう上流の人に頼みに行ったら「黙れやヨソモンが」と一喝される。こうした苦労は農業の経験がない人間が読んでも、かなり心にグッとくるだろう。本作の『なんでオレがこんなこと』というタイトルも、田んぼの中でふと漏らした作者の愚痴から来ている。

そんなこんなで悲喜こもごもの田舎暮らしだが、挫折にくじけない根性(悟りにも近いが)と、温かい絵柄のおかげで悲壮感はない。また、同居している個性的なメス猫とのエピソードはこれ単体で作品にして欲しいほど完成度が高い。1話が10ページ前後とボリューム感が手頃なこともあり、かなりオススメできる良作である。

【作品データ】
・作者:高波伸
・出版社: A-WAGON
・刊行状況:第15話まで