すでに彼氏(彼女)がいる人、もしくはすでに結婚している人を好きになった経験がある人もいるのではないでしょうか。好きになってはいけない人というのは、普通の人なら理解できるはず。それでも「こんなにあなたのことが好きなのに」と思うと、胸が締めつけられるような思いがしますよね。
そんなちょっとビターな百合物語が、今回ご紹介する『おとなになっても』です。
主人公は、ともに35歳の大久保綾乃と平山朱里。
綾乃は小学校教師、朱里は元美容師で今はバーで働いています。朱里はもともとレズビアンですが、好きになった人は男性と結婚し、恋愛に対して臆病な態度をとっています。
物語は仕事帰りの綾乃が入ったバーで、朱里に声をかけられたところからはじまります。
二人はお酒が入った勢いで突然の恋に落ちて唇を重ね、また会う約束をするのですが……。
実は、好きになった人は既婚者で……。
そんなちょっぴり切ない物語を、『こいいじ』や『青い花』など恋愛マンガでは定評のある志村貴子先生が描きました。
絵柄については、本当に人物描写が巧みです。そのつもりはなくても相手を振り回してしまう女性と、そんな彼女に惹かれていく女性を柔らかいタッチでその繊細な感情を描きだしています。
いくら女性同士とはいえ、既婚者に恋しているわけなので不倫です。でも、「あたしは彼女が好き」という気持ちを抑えられず、「お前は既婚者だろう」と言いつつやり取りを楽しんでいる朱里に思わず共感してしまいます。
綾乃ははじめて女性を好きになったことで、朱里は既婚者を好きになってしまうことに慣れているはずなのになぜか惹かれてしまう自分にそれぞれ戸惑っていますが、これからの二人がどうなっていくのか。
何度読み返しても、胸騒ぎがしてしまう一冊です。
【作品データ】
・作者:志村貴子
・出版社:講談社(KISS)
・刊行状況:既刊1巻