昭和生まれの超・怪作アクション『迷宮神話 はじけて!ザック』

昭和後期から平成中期にかけて「コロコロコミック」と並び、少年たちのハートをがっちり掴んだ漫画雑誌「コミックボンボン」。2007年に廃刊となるまで多くの作品を送り出してきた同誌だが、そんな中でも異彩を放つ超・怪作がある。今回は電子コミックとして蘇った伝説的なアクション巨編『迷宮神話 はじけて!ザック』を紹介したい。

舞台は1980年代の日本。ごく平和に暮らす美少女・ノンの家へ、ブラジルから遠い親戚の少年が居候としてやってきた。ザック(本名:朔左衛門)と名乗る少年が来日した目的は、ずばり嫁探し!そしてもう一つの「世界一ケンカの強い男になりたい」という夢を実現すること。自分の本能に忠実で女子たちのスカートをめくり、強そうな男がいればケンカを挑むザックの前に、天才ボクシング少年の氷石が立ちふさがった時から、物語は動きはじめる──

こんな感じで、当初は80年代の漫画によくあるお色気学園コメディとして始まった本作。連載時のタイトルは「迷宮神話」がなく、単なる『はじけて!ザック』だった。これが30年以上もマニアの間で語り草になった理由は、中盤から何度か作風と作品ジャンルが大きく変わったことだ。

細身ながら一撃で敵を粉砕するハードパンチを持つライバルの氷石が登場し、初対決でザックはぼろぼろにされる。そこから猛特訓してボクシング技術を身につけ、理論と野生の融合したファイトでリベンジを果たすあたりが序盤の山場で、ジャンルは必殺パンチが飛び交う『あしたのジョー』のような熱血スポーツ路線へと変化した(嫁探しのテーマは事実上消滅)。

圧巻なのはこのライバル対決の決着後だ。ザックや氷石が通う学園だけでなく、地元全体に影響力を持つ市長の息子・白川ユダが現れ、少年誌にあるまじき残忍さと不死身ぶりを披露。ザックたちを巻き込んで公開殺人バトルショーを開催するなど、どんどん流血と死体がページを埋めるスプラッターバトル漫画に変貌する。

さらに終盤、ネタバレのため詳細は伏せるが、まるで『デビルマン』のように光と闇、魔王と救世主といった壮大なテーマのサイキックホラー路線に転換。読者の度肝を抜いた。

ちょっと何を言ってるかわからないと思う人もいるかもしれないが、実際その通りなのだから仕方ない。中盤以降の展開が過激だったせいかボンボンから単行本が出ることはなく、後に別出版社から青年向けコミックとして出版。この時に「迷宮神話」という言葉がタイトルが加わり、唐突な路線変更の違和感を和らげるため加筆も行われた模様だ。現在電子コミックとして読めるのも、こちらの青年版である。

この通り多少のエロ、過剰なグロ、暴力、トンデモ描写が多いため、必ずしも万人に好かれる作品ではないかもしれない。しかし「野生の強さ」を象徴するザック、「男気」を象徴する氷石、「理不尽な暴力」を象徴する白川……とメイン3役の個性が際立っていて、作品全体が秘めているエネルギー量はあらゆる漫画中でトップクラスと言っていい。

やや終盤が駆け足展開だったことを除けば、不満らしい不満は見当たらない。過激な作風でもオッケー!むしろアツければ大歓迎!という人なら、きっと満足できるはずだ。

【作品データ】

・作者:井上大助
・出版社: オフィス漫
・刊行状況:全4巻