思わず応援したくなる実録エッセイ!『東京23区内に月1万5千円以下で住んでみた』

インターネットの普及により、さまざまな情報が手に入る現代。しかし単なる知識よりも「実体験」が重視されるところは変わらず、ウェブコミックやYouTube動画などでも実録系・体当たり取材ネタが人気を博している。今回はそんな流れで短編コミックエッセイ『東京23区内に月1万5千円以下で住んでみた』を紹介したい。

主人公は現在漫画家をしている作者本人(の若いころ)。時代設定は1998~1999年となっている。高校生まで鹿児島で育ち成績優秀だった主人公だが、「実家を出て自由に生きたい!」と進学を拒否して福岡市での一人暮らしを開始。コミュニケーション能力の不足などからバイトの面接に落ち続け挫折した彼は、ふとした出会いがきっかけで東京へ移住することになった。ここから18歳青年の大都会サバイバル生活が幕を開ける。

と、こんな感じで物語はスタートする。時は平成不況まっただ中の90年代後半、しかも主人公は高卒・自動車免許なしということで序盤からハードモードだ。

この作品のみどころは、なんと言っても実体験だからこそ描ける迫真のリアリティだろう。稼げるスキルも家を借りるアテもない主人公は、まず未経験OK・住み込みでやれる新聞配達の仕事につく。早朝のバイク配達はノーヘル運転だとか、ワケありの人が集まっているとか、大雨で全部濡れてしまった新聞をそのまま投函したとか、キツい仕事のわりに時給換算してみたら約500円だったとか、非常に細かいところまで描かれている。

新聞配達編で心にジンと来たのは、仕事に慣れてきたころ、同僚のオジサンと何気ない日常会話をした直後、主人公自身も訳がわからず涙が止まらなくなったシーン。単身で都会に出てきて張り詰めていた気持ちが不意に決壊した……そんな心情表現が見事であった。

その後も主人公はより良い労働条件を求め、焼肉店、居酒屋アルバイトなどを経験。途中で「月収100万円以上も可能」という求人に釣られて明らかにヤバげな場所に迷い込んで即バックレしたり、仕事に恵まれず十代にして職業不詳ホームレスになったり、波乱万丈の展開(しかも実話)は読者を飽きさせない。

こうしたお仕事系のテーマを扱うと暗い作風になりがちだが、本作はやわらかい絵柄とポジティブ思考のおかげで、不思議なくらい気楽に読み進められる。作者自身が語る「千円さえあれば人生は再スタートできるんだ」という力強い言葉には、希望すら感じられるだろう。リアリティある社会勉強をしながら心もあたたまる一冊として、いろいろな人にオススメしたい。

【作品データ】
・作者:田口始
・出版社:ぶんか社
・刊行状況:全1巻