全編スプラッターホラー!『虫に願いを』が恐怖!

女性からすれば、小さなコバエでさえ怖いという人もいるだろう。羽が生えているとか、足がたくさんある虫は、見るだけでもゾッとするのは確かだ。今回紹介する『虫に願いを』では、虫の卵を食べれば願いがかなうという不思議な表題作から始まる。もちろん、良いことばかりは起こらない──。

3つの願いなどによくあるように、願い事は表面的にしか叶えられないことが多い。『虫に願いを』でも同様の形式で、最終的にスプラッターエンドになるのは恐怖を煽る。次いで、人間に恋をした『虫少年の恋』では少年の哀しい結末があり、『虫屋の密やかな愉しみ』で虫たちの真相が語られる。

『母恋し虫殺し』と『虫人形』は、ともに母親に愛されない子供の話だが、方向性が違うので好みが分かれるところだろう。『母恋し虫殺し』の方がややハッピーエンドの可能性が見える。いずれにせよ、親に愛されない子供の憎しみは想像以上に大きいということだ。

スプラッターと虫という絶叫的コラボのおかげで、おどろおどろしい絵面に加え、ヒトの内臓や噴出する血の描写が多い。そもそも虫やその卵を食べるという行為が既に恐怖だ。そして性格が変わっていき、内に抑え込んだ欲望や悪意が爆発する。

誰の心にも不満や悩みはあり、しかし普段は理性で抑えている。虫に願ったことによって、そのタガが外れたとしたら、どんな恐怖が待っているのか……。願う相手が神でも悪魔でもなく、「ただの虫」であるからこそ、人間はよく考えもせず気軽な気持ちで願ってしまうのだろう。その願いがどういう形で叶えられるかも知らずに──。

ヒトの内面に秘めた恐ろしさと偽善、スプラッターという視覚的な恐怖、心理的に蝕まれる不快さを兼ね備えながらも、読み進めずにはいられない本作。あなたは虫を食べても正常でいられるだろうか……?

【作品データ】
・作者:蕪木彩子
・出版社:ぶんか社
・刊行状況:全1巻