胸がアツくなる犬(おとこ)たちの死闘と絆…!『銀牙 -流れ星 銀-』

平成の終わり頃にペットブームが起き、犬や猫を題材とした漫画も次々に登場した。その多くは日常生活の中で人と動物が触れ合うおだやかな物語だが、あえて今回は逆路線の「戦い」を主軸にした犬物語を紹介したい。それは昭和末期に生まれ、今なお続編シリーズが連載されている『銀牙 -流れ星 銀-』だ。

舞台は東北の雪深い山奥。主人公の秋田犬・銀は、熊を狩るための犬として誕生した。父親も優秀な狩猟犬だけあって、幼いうちから恵まれた素質を開花させていく銀。しかし彼らの住む地方にはとんでもないバケモノ熊が潜んでいた。通常の熊をはるかに超えた身体サイズ、人も狩猟犬もやすやす引き裂くパワーと残虐性──その人食い熊は「赤カブト」と恐れられた。

銀の父親も腕利きの猟師に率いられて立ち向かい善戦はするが、谷底へ落とされ生死不明になる。ほどなく銀は赤カブト打倒をめざす野犬の軍団があるのを知り、やさしい飼い主たちと離れて軍団に合流。ここから長きにわたる勇者の伝説がはじまった……!

こんな感じで登場キャラの大半が犬なのだが、選ばれた血筋、才気あふれる主人公、倒すべき宿命の敵、戦いからめばえる友情、種族を超えた(本作の場合は犬と人間の)絆、このあたりは完全に少年漫画の王道ストーリーだ。犬同士が人間並の難しい言葉でコミュニケーションを取るのも特に違和感はない。

では犬の集団を主役にしたメリットは何かといえば、それは人間のように社会的な規範・しがらみがなく、よりシンプルな「戦い」や「感情」が描けることだろう。

強さが第一になる野犬の世界では、敵対する野犬集団と戦い、身内の裏切り者とも戦い、また最大の敵である熊とも戦う。しかも犬だから人間のような銃器・刃物は使えず、敵の手足や首を噛み砕くのが主戦法。足りない攻撃手段は気迫や根性で補うという単純化された構成だからこそ、キャラクターたちの喜怒哀楽がすっと読者の頭に入ってくる。

単純ではあるが決して単調でない戦闘シーンを描けているのは、作者の高い技量のおかげだろう。主役の銀は秋田犬、軍団の重鎮はグレートデン、忍術の使い手(!)は紀州犬、狩りのエリートを名乗るのはシェパードなど、役割によってさまざまな犬種を描きわけているのは素晴らしい。犬種の違いはそのまま性格や戦い方のバリエーションにつながり、作品の深みを増している。

対する宿敵の赤カブトも一筋縄ではいかない。10メートルは超えそうな規格外の体だけでなく、繁殖力や統率力もすぐれ、たくさんの熊を従えて要塞ともいえる牙城を山奥に築く。人間の近代兵器だけでも、犬たちの牙だけでも勝つことはできない。しかし両者が力を合わせれば活路が見いだせるかもしれない──!そんな決戦シーンはワクワクとハラハラの連続だ。

ちなみに赤カブト戦に区切りがついた後も、勇気ある野犬軍団の物語は終わらない。より狡猾でおそろしい敵の出現、銀の息子、さらに孫へと引き継がれていく戦いの宿命、いつまでも変わらない犬と人間との友情。シリーズを重ねるごとにドラマは面白さを増すので、初代『銀牙 -流れ星 銀-』を楽しめた人は、ぜひ続編まで追ってみてほしい。

 【作品情報】
・作者:高橋よしひろ
・出版社:集英社
・刊行状況:全18巻