人の心の闇を覗く『君に捧げる屍(し)』は4つの極上短編集!

殺人現場や事故直後の死体など、刺激的なものばかりを撮影する写真家のケニス。世の中の評判は最悪で、職場でも孤立しがちだ。いつも届く非難の手紙の中から、ある日不思議な内容のものを見つけると、彼の周囲で連続殺人事件が始まった。もともと評判の良くないケニスは、警察にまで疑われる始末。果たして彼は身の潔白を証明できるのか?

表題作『君に捧げる屍(し)』は、主人公ケニスの幼い頃のトラウマで誰も信用できなくなり、窮地に陥った時に助けてくれる相手がいないという状況を濃くあぶり出している。『常闇(とこやみ)の家』では事故死した2人の男女が、お互いに自分の友人を信頼しきれていなかったことに気付かされる構成。『幽霊山荘にて』も、主人公の少年を襲った殺人犯の暗い過去や、構われて鬱陶しいと思っていた少年が実はそれが幸せだと気づく経緯が描かれる。

そんな中『DEATH ROAD』だけがややホラーに濃く寄っていて、悪魔と契約させられた青年が家出希望の甥っ子と街を渡り歩き、悪魔を出し抜いて生還するホットな物語になっている。しかし、4つの短編はどれもグロテスクさの中に感傷的な部分があり、サイコ・ミステリー風のホラーに仕上がっている。

やや古い絵柄ではあるが、主に男性を主人公とした少女漫画で、単純に「ホラー」というだけのジャンルにはめられない味のある作風だ。どの作品もラストに恐怖は拭われ、考えさせられる部分もあるような妙味のあるエンディングが興味深い。ホラーと言えば幽霊モノだが、この世のものでない何かを使うことで、むしろ人間味が引き立っている。

今から25年近く前に刊行された単行本だが、改めて現代にも通用するモチーフが背景にあると再認識させられる。結局、恐怖心や猜疑心は人間の心に巣食い、それが悪夢となるのだ。本作の主人公たちは、それを克服できた喜ばしい人物であると言える。ホラーからは学べることも多いものだ。人間関係に迷ったならぜひ一読していただきたい。

【作品データ】
・作者:瀬川乃里子
・出版社:オフィス漫
・刊行状況:全1巻