事故の“真実”を暴くプロの眼光!『交通事故鑑定人 環倫一郎』

高齢運転者のアクセル踏み間違い事故や、悪質なあおり運転が問題になっている現代日本。ドライブレコーダー装着で自己防衛しようとする人も増えてきているが、まだまだ一般ドライバーをとりまく状況は楽観視できない。今回は、そんな今だからこそ読んでおきたい1990年代の傑作『交通事故鑑定人 環倫一郎』を紹介する。

主人公の環 倫一郎は、ボサボサ頭に地味なファッションで、いかにも気弱そうなアラフォー男。だが彼は日本人ながら名門マサチューセッツ工科大学で教鞭をとるレベルの「交通事故工学教授」であり、元強豪ボクサー、そして元プロレーサーという経歴をもつ天才だった。倫一郎は悲惨な交通事故が起きると遺族や関係者から依頼を受け、物言わぬ犠牲者が現場に残した“真実”を解き明かしていく──!

こんな感じの作品設定で、ざっくり言うなら『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』を交通事故特化型にして、メインの舞台をアメリカに移した感じだ。エピソードごとに最初から悪人(犯人)が読者には知らされていて、冴えない中年男が犯人のウソを突き崩していく構成になっている。

さすが交通事故鑑定のスペシャリストを題材にしているだけあって、一番の見どころは倫一郎の鮮やかな調査・推理シーンだろう。たとえば歩行者が「酔って車道に飛び出したせいで轢かれた」と断定された死亡事故で、現場を見にきた倫一郎は、路面のブレーキ痕、轢いた車のフロントガラスの傷、被害者のジーンズに付着した塗料などから、目撃者の証言に矛盾があると見抜く。さらに検証を重ねるうち、なにげない1枚のスナップ写真が決定打となり、実は目撃者こそ「歩道」を歩いていた被害者を死なせた真犯人であると証明する……こんな流れだ。

また、『コロンボ』『古畑任三郎』にないジャンプ系ならではのエンタメ要素として、アクションシーンも見逃せない。倫一郎が調査する案件には保険金目的、恋愛感情のもつれなどが理由で「偽装された事故」がとても多く、真実が明らかになると破滅する犯人は当然彼の活動を妨害してくる。そのたび倫一郎はピンチになるが、事故鑑定人と元レーサーの経験を生かし、自分を轢き殺しに来た車を逆に大破させるなど予想外の切り抜け方をする。たかが小柄な東洋人と侮った犯人は彼の抹殺失敗にショックを受け、さらに最後の推理で事故のトリックが全部暴かれてしまうという、二段構えのカタルシスが痛快である。

連作エピソードもあるが基本的には1話完結なので読みやすく、「とぼけた風貌だが見せ場ではカッコいい主人公」「直情的だけど素直でかわいく、時には推理の大きな助けとなるヒロイン」というメインキャラの組み合わせも秀逸。しかも悪党はきちんと報いを受ける勧善懲悪スタイルなので、広い範囲の読者に受け入れられる作風だろう。

緻密な科学的推理と派手なアクション、温かい人情ドラマまで漫画に求める欲張りな人は、ぜひ本作を手にとってみて欲しい。

【作品データ】
・原作:梶研吾 作画:樹崎聖 監修・資料提供:江守一郎
・出版社:A-WAGON
・刊行状況:全18巻