【連載】格闘漫画マニアックス – 『修羅の門』レビュー

こんにちは。ライターのくせに少林寺拳法四段、まったく資格が仕事に役立っていない六郎です。今回から連載企画として“格闘技”をテーマにした漫画のレビュー&コラムを書いていきたいと思う。メディアミックスされたメジャー作品から、1万人中5人ほどしか知らないであろう超マニアック作品まで幅広く紹介したい。

まずは長編格闘ロマンとして知名度も高い『修羅の門』をレビューする。

修羅の門(31) (月刊マガジンコミックス)

【作品データ】
・作者:川原正敏
・出版社:講談社
・コミックス:31巻まで(続刊)
・リアル度:★★★★☆
・知名度 :★★★★★
・他の漫画に影響を与えた度:★★★★★

【あらすじ】
最強の実戦空手集団・神武館に一人の小柄な少年が訪ねてきた。道場破りのようにして並み居る強豪選手を倒した少年は陸奥 九十九(むつ つくも)。伝説の古武術「陸奥圓明流」の継承者だと名乗った。1000年間不敗の古武術が現代に現われたというニュースは格闘技界を揺るがし、数々の格闘家たちが打倒・陸奥のため動き出す……。

【みどころ】
伝説の古武術をあやつる少年が、未知の技をもって既存格闘技のエキスパートをバッタバッタとなぎ倒していく。日本で戦い抜いた九十九はやがてアメリカへ旅立ち、不利なルールでプロボクシングに挑戦。さらにブラジルでも世界中の格闘家が集うトーナメントに参加。どんどん活躍のスケールを広げながら、ただひたすら“強い者”との戦いを求めていく――この全編を通して過剰なまでにあふれる“ロマン”が読者にとってはたまらない魅力だろう。

対戦相手はフルコンタクト空手にはじまり、キックボクシング、プロレス、ボクシング、カポエラ、軍隊格闘技、柔術など非常にバリエーション豊か。ごく一部(ボクシング編)を除いて試合は反則がほとんどない超実戦ルールで行われるため、打撃・関節・投げ技すべてをそなえた陸奥圓明流の強さがきわだつ。

もちろん本作のキモとなる格闘シーンは、作者が武道経験者ということもあってか秀逸だ。安易に主人公が謎のパワーアップを遂げたり、気のカタマリを飛ばして敵を倒したりしない。

たとえばゼロ距離からの強烈な打撃技、たとえば空中で回転しての2連カカト落とし……超人的ではあるが、もしかしたら現実にも使えるかもしれない「ほどよくリアルな必殺技」にあふれている。リアルさより見栄えの良さとインパクトを重視した当時のジャンプ漫画とは、いい意味で対極にあったといえるだろう。

戦いの合間に挿入されるドラマ部分も、短くはあるが構成がしっかり練られていて見どころいっぱい。基本的にギャグやお色気はないが、読者のハートを熱くさせる名言、泣かせるシーンなどには事欠かない。おそらく作者の才能はこの作品で本格的に開花したのだろう。いずれこの連載でも紹介したい外伝『修羅の刻』では卓越したストーリー構成力が堪能できる。

おもしろい格闘漫画を読みたいならまずコレを一番にチェック!……と言いたいところだが、唯一の難点は連載が長期にわたりストップしていること。第四部終了が1996年で、予定されていた第五部がいつまでたっても始まらない(理由についてはネタバレを含むため単行本の作者コメントを参照されたい)。

なお、この記事を書いている2010年6月時点で、作者の最新作『海皇紀』が最終回直前を迎えている。ファンとしてはこの後、ぜひ『修羅の門』を復活させて欲しいものだと願う。

【うんちく】
個人的な見方だが、1987年に連載スタートした本作は、後に続く一連の「古武術漫画ブーム」の基本フォーマットを作り上げたといえる。

その代表的なポイントは以下の通り。これらを以後の連載記事では、勝手に“修羅フォーマット”と呼ばせてもらいたい。

・伝説の古武術を使う主人公が現代に登場する。
・主人公は小柄であり、体格のハンデがある。
・最初に主人公と戦うのは空手や柔道などメジャー武道の総本山である。
・その総本山には「老いた武神」と「若き天才」がセットでいる。
・実は主人公の流派にはもう一つの流れがあり、やがて両者は同門対決をする。

……古武術ジャンルでは実にこのパターンが多いのだ。そして修羅フォーマットを適用した漫画はほぼ例外なく、熱くておもしろい作品になっている気がする。そうした意味でも先駆者となった『修羅の門』は偉大だったといえるのではないだろうか。

というわけで、次回は同系統の古武術漫画をもう一つ紹介する。興味がある方はどうぞお付き合い願いたい。

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