どんな難事件も”食べて解決”!? グルメ&ミステリーの傑作『喰いタン』

警察でも手を焼く事件現場にふらりと現れ、明晰な頭脳で謎を解き明かす──名探偵モノといえば古くからエンタメ文学の定番だ。そのジャンルに『将太の寿司』『ミスター味っ子』で知られる実力派グルメ漫画家・寺沢大介氏が挑めばどうなるか……? 今回は『喰いタン』を紹介したい。

主人公は探偵事務所を営む男・高野 聖也。警察から難事件の捜査協力を依頼されるほど有能だが、彼の推理アプローチはどんな名探偵とも異なっていた。ただ「食べまくる」ことなのである。移動中に見つけた店で食べる、客が持ち込んだおみやげを食べる、おまけに凄惨な殺人現場でさえ冷蔵庫の中身をあさって(!)食い散らかす。そうした奇行から意外なヒントを見つけて事件を解決に導く、異色のグルメ推理が見どころとなっている。

そんなバカな、食べただけで犯人が分かるものか!と思われるかもしれないが、実はかなり説得力ある謎解きシーンなのが本作の特徴だ。一例を挙げると、年老いた富豪の若妻が殺された。その現場へ呼ばれた高野は冷蔵庫にあった残り物を食い荒らしながら「妻の手料理はとても高脂肪・高カロリーで健康に悪い。毎日食べさせて夫の寿命を縮め遺産を狙っていたのではないか」と推理を巡らせる。そして残った食品の中で唯一、低脂肪チーズを使った健康的なティラミスを発見。「妻の悪だくみを知って阻止しようとした関係者がいる。そいつは富豪の身を案じている人物で、健康に良い絶品ティラミスを作れるほど料理がうまく、勢い余って妻を殺した犯人である」と結論を導き出す……こんな流れだ。

強引に思えるかもしれないが実際に読んでみると、わずかな味の違いを感じ分ける鋭敏な味覚、食材への深い知識、論理的な思考力、人間心理の洞察などあらゆるスキルが総動員されていて、この主人公でなければ謎は絶対に解けなかったと妙に納得させられる。登場する食品も珍しい高級食材から庶民的な定番フードまで幅広く、それぞれに応じた推理が展開されるので飽きずに読んでいけるだろう。

ちなみにシリアスシーンも多いが全体としてはコメディタッチが強めで、直前まで描いていた『将太の寿司』とはかなり作風が異なる。主人公は質量保存の法則を無視した量を平気でぺろりと平らげるわ、堂々と担当編集者を作中でおちょくるわ、最終話では「打ち切り」なんて禁断ワードを使うわ、やりたい放題である。1980年代から一線で活躍する寺沢大介作品の中でも、飛び抜けてライト寄りな印象だ。

気軽に読めてオリジナリティもある本格推理コミックとして、本作『喰いタン』は高い完成度にある。実写ドラマ化されていたから名前だけは知っているという人も、ぜひ一度原作を手にとってみてほしい。

【作品データ】
・作者:寺沢大介
・出版社:講談社
・刊行状況:全16巻