母の思い出の庭……『GARDEN』は秀逸なサスペンス・ロマン!

いつも庭で笑っていた母。しかし交通事故で亡くなってしまい、不在がちでそのまま行方不明になってしまった父とも連絡が取れず、主人公の苑子はその家を去って学校を出て就職もした。やがて結婚を機に、家賃のいらないその家に戻り、庭の花壇の手入れをしていると、古びた裁ちバサミが埋められているのを見つける。もしかしてこれはあの日の──?

結婚して3年という苑子と夫の関係は微妙だ。会社の接待や急用という浮気のごまかし方は、非常にありふれているだけに、現実でも漫画でも何年経っても不動の言い訳だと思う。携帯電話が普及するようになると、さらにそれは便利さを増していく。けれど母に似ておとなしく思い詰める性格の苑子は、夫を追求できない。不安と憎しみが心の中に溜まっていくばかりで……。それはいつの時代の女性も変わらないのだと身につまされる。

やがて夫の携帯電話にかかってきたメッセージで浮気を確信し、亡き母にすがるように庭を掘ると、あちこちから出てくる鎌、父のスーツやシャツ、時計……。もしかして母は──?幼い頃の記憶を思い出すと、いつの間にか苑子は夢の中で夫を殺してその庭に埋めていた。この部分の、記憶から自分の妄想へのすり替わりが絶妙で、いつの間に苑子は夫を殺してしまったのかとヒヤリとさせられる。

少女漫画の美しいタッチの絵柄であるために、美人な母の陰鬱な表情と笑顔のギャップに不穏さがうまく醸し出されている。浮気男のテンプレ的な夫の描き方も、かえってわかりやすいだろう。裏表や駆け引きのない短い物語の中に、悲壮感やゆらぎなどのマイナスな感情が込められていて、読む手を止められない。男性の浮気に心当たりのある女性には、さらに刺さるのではないだろうか。しかしラストは暗鬱さを払拭するような潔さで、読後感は悪くない。

浮気男には毅然とした態度で臨むべきだとは思っても、いざ自分がその立場に置かれれば何ができるかわからないだろう。『GARDEN』にはそうしたメッセージ性もあり、読み進める都度、ハッとさせられるものがある。だからこそ、いつの時代であっても浮気や不倫がサスペンスのモチーフにピッタリとはまるのかも知れない。できればフィクションの世界だけであってほしいものだ。

【作品データ】
・作者:さかたのり子
・出版社:A-KAGURA
・刊行状況:全1巻