少女漫画の王道!『春をください』で過去へタイムトリップ!

クラスメイトのお金を盗んだという濡れ衣でクラスに居場所をなくして転校した少女や、日本人(日本国籍)なのに赤い髪が目を引くせいで異端児扱いされる少女、有能な科学者の兄を認められたいと必死にその功績を見せようとする妹など、個性的なキャラクターが主人公の4作品からなる短編集『春をください』。少女漫画が全盛期だった頃の作品を振り返りながら、色褪せない魅力に迫りたい。

本作の初出の1982年といえば、もう35年以上になる。作者が「いとうかよこ」から「関よしみ」に名義変更し、電子書籍のみで読むことのできる初期短編集がこの『春をください』だ。ホラー漫画家へ転身する前の、少女漫画らしい作品集に微笑ましく癒されつつ、最後に持ってきた表題作で涙腺崩壊させるという暴挙的な構成となっている。

新しい学校にも自分の噂を知る人物がいて、穏やかでいられないが、友人は自分を映す鏡だと知ることのできる『心の鏡をのぞいたら』。見た目で誤解されてばかりのため、自分をわざと見た目に合わせている本当は寂しがり屋な少女をめぐる『赤い花のメッセージ』。「マッド」だの「バカセ(=バカ博士)」だのと揶揄される兄を思って、その実験を表に出したい妹が奮闘する『マジカル館へいらっしゃい』。

どの作品も一筋縄ではいかず、二転三転する仕掛けが興味深い。古い少女漫画タッチだが、むしろそこが時代の流れを懐かしむことができて良いだろう。「恋愛漫画の金字塔」と謳われる作品集なので、よくある予測的パターンも踏襲しつつ、作者の独特な解釈の作風が活かされている。

表題作となる『春をください』は、病弱なお嬢様が療養のために田舎に引っ越してきて、地元のやんちゃ小僧が心惹かれるという定番路線だ。しかし実は少年も母親を病気で亡くしており、そこから「弱虫は嫌いだ」という発言に至る。少女は自分が少しでも強くなれればもっと彼と仲良くなれるだろうか、嫌われずにいられるだろうかと、都会に戻って手術をする決心をするのだった。

ただ、少女漫画だからといって必ずハッピーエンドで終わるわけではないのが本作の見どころ。とはいえども、ひどいバッドエンドではなく、その間の夢のような時間でふんわりと終わらせているのが余計にもの悲しく涙を誘う。

「男の子は好きな女の子をいじめたくなる」という真理が随所に描かれ、それがまた微笑ましい。少女同士の友情の脆さやつないだ絆の深さなど、難しい年頃の人間関係にも踏み込んでいる。まさに古い少女漫画であるからこそ、今読むと心を揺さぶられるのだ。新しい風が吹くような気持ちで読み進められる、昨今ではあまりない王道少女漫画に、心ゆくまで浸ってみたい。

【作品データ】
・作者:いとうかよこ/関よしみ
・出版社:グループ・ゼロ
・刊行状況:全1巻