少年が目指したのは勇者でも魔道士でもなく司書だった『図書館の大魔術師』

「ジャケ買い」や「パケ買い」という言葉があります。中身は分からないけど、ジャケットやパッケージのデザインに惹かれて買ってしまうことを言います。古くはレコードからCD、DVD、本や漫画、ゲームソフトなどで、それらの言葉が使われています。今回紹介する漫画『図書館の大魔術師』(泉光)も、そうしたくなる1作です。


講談社「good!アフタヌーン」で連載中の本作。正確なタイトルは『圕の大魔術師』です。最初の漢字は「口(くにがまえ)」の中に「書」が入り、それで図書館とのこと。さすがに分かりにくいので、ここでは以後も「図書館の大魔術師」と表記します。

主人公はもちろんこの第1巻表紙の少年、シオ=フミス。耳長族とヒューロン族の混血児なこともあり、住んでいる田舎の村では何かと差別や迫害を受けています。けれども、ふとした事件がきっかけで村を訪れたアフツァック中央図書館の司書達と出会ったことで、シオは司書への道を目指すことになります。

舞台は中世ヨーロッパを思わせる架空の世界で、魔法やドラゴンなども登場します。耳長族やヒューロン族などをはじめいろいろな民族もいますし、表面は穏やかながらも権勢を競い合う集団や国々も存在します。が、まだ物語は始まったばかり。連載が進めばそれらの状況もより明らかになっていくでしょう。

さて、先ほどのツイートから「ああ、原作があるのか」と思った人もいるでしょう。確かに単行本だけでなく、「good!アフタヌーン」にもこう書かれています。
〈原作「風のカフナ」 著作 ソフィ=シュイム 訳 濱田泰斗〉
ただし、そんな本や人物はいくら検索しても出てきません。


ネット上では、「ソフィ=シュイム」が主人公である「シオ=フミス」のアナグラム、つまり文字を入れ替えたペンネームと推測している人もいます。あ、もちろんアルファベットに変えて、ですよ。私もそんなところなのではと思っているのですが、それ以上は作者の展開に任せたいと思います。翻訳者の「濱田泰斗」も、作者である泉光さんの本名をアナグラムしたものかもしれませんね。

作者の泉光(いずみ みつ)さんは集英社の「ジャンプスクエア」などで連載されていました。現在のところの代表作は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』になるのでしょうか。『7thGARDEN』なる作品もあるのですが、残念ながら現在は休載中。本作が長引けばそのまま……なんてこともありそうです。


さて、「ジャンプスクエア」の2014年5月号に『図書館の見習い司書』(泉光)なる作品が掲載されています。さすがに現在では読むのは難しいのですが、ネットで検索すると内容の一端を伺うことができます。舞台もほぼ同じ。主人公の名前も同じだけれども、性別は違う。そしてタイトル通り見習い司書の活躍を描いた漫画のようです。

思うに本作のたたき台のような作品だったのかなと。でも、あまり反響が良くなかったので連載化はなかった、と。「集英社さん、ヒット作品を逃しましたね」と思いたくなりますが、雑誌のカラーや編集部の意向もあるので、なかなか難しいところです。講談社「good!アフタヌーン」で陽の目を見たのは作者の努力か、「good!アフタヌーン」編集部の掘り出し物を見つける目があったのか。

さて、8月7日(水)の「good!アフタヌーン」発売に合わせて、本作の単行本第3巻も発売予定です。なんと単行本の第1巻と第2巻のカバーデザインはつながっているとのこと。

ここから第3巻にどうつなげていくのか楽しみです。

第1巻から第3巻(おそらく)までは、アフツァック中央図書館の司書を目指したシオが日夜勉強に励み、受験に挑むまでが描かれています。「どうせ合格するんでしょ」と思っている人が大半でしょう。そこはそれ、漫画ですしね。もっとも、あえて一浪くらいさせても面白そうですけど、ちょっと酷かな。女性が多めの司書や司書受験者の中で、シオの奮闘ぶりが見ものです。直近の「good!アフタヌーン」連載では、その後も描かれているのですが、ネタバレともなりますので、あまり多くを語るのは止めておきましょう。

本作を読んでいて気になることが1つあります。簡単に書けば「最後までちゃんと描けるの?」ってことです。基本的には主人公であるシオ=フミスの成長譚なんでしょうけれども、物語の端々に世界が混乱に進みつつあることが描かれています。その一端として、司書受験に来たシオは魔物が起こした事件に巻き込まれますし、その魔物を持ち込んだ人物も司書受験者らしき風に描かれています。

つまり、成長したシオが立派な司書になって「ああ良かったね」では終わらない感じがありありなんです。そんな雰囲気だけ感じさせて、「シオ達の戦いはこれからだ!」的な終わり方もあるんでしょうけれども。

2017年2月から始まった連載は約2年半で単行本が3巻。このペースで進むとして、単行本30巻なら20年余、50巻なら30数年ってとこでしょうか。そこまで描き切れるのか、そもそも「good!アフタヌーン」誌が生き残っているのか。漫画界そのものも大丈夫なのか。と心配が尽きない作品ですが良作です。

【作品データ】
作者:泉光
連載:講談社(「good!アフタヌーン」連載中)
刊行状況:1~2巻発売中、8月7日(水)第3巻発売予定(以下続刊)