素直じゃないのはどっち?『世紀末-1999-の愛し方』で本物の恋を探そう!

クリスマス・イブなのに、公園のベンチで一人でハンバーガーを食べる、ボサボサの髪の辛気臭い少年は長谷川喜一。周囲の女性からは「絶対オタクよ」「暗そう」「かわいそー」などと囁かれているが、彼を追いかけて公園までやってきた主人公の少女・明日菜が、勢いで「あなたが好き!」と突然の告白?!しかし直後に「うざってーんだよおまえ」という声が背後から聞こえる。しかしその声は背後の別人の別れ話だった。だが正義感の強い明日菜は、女性に対するひどい言い草にイラッとして何か言いかけたところ、立ち上がった喜一が──?!

実は喜一のことを、高校に入学した日から好きだった明日菜。ちょっとストーカーじみつつ、彼のことをずっと見ていたから何でも知っている。勢いで告白はしたものの、喜一は明日菜のことをよく知らないから、冬休みの間に会ってもっと知ってから返事をしたいと言う。それももっともだと納得した明日菜は、お試し期間とはいえ、楽しい日々を過ごせそうだと思った。

ところが少女漫画の鉄板、美少女ライバルの出現!積極的な由貴に、明日菜のハッピーなはずの冬休みは突如ブラックに。しかし根が純粋な明日菜は、スケート場で3人で過ごしている時に、由貴が元カレと出会い因縁をつけられているのを見て黙っていられず、「二人は超ラブラブよ!」と断言してしまう。そこから喜一と由貴は周囲に公認の仲と誤解されて……?やがて運命を分けるバレンタインデーが訪れる。

すれ違い、誤解、逃げ……でも、それでは何も解決しない。少女漫画のパターンにハマりつつも、根がまっすぐすぎる性格の明日菜なので、ウジウジ悩むだけのありきたりな主人公にならないのが応援したくなるところだ。傷付いてもいいから、噂話ではなく、本人の口から直接本当のことを聞きたい──。明日菜と由貴のぎこちないすれ違いももどかしく、それでも「いい子ぶって見えるなら、あたしほんとにいい子なのよ」と言える明日菜には泣ける。由貴の気持ちもわかるだけに、ライバルでも嫌いにはなれないかも知れない。

同時収録の短編『太陽がいっぱい!!』は、お嬢様と不良の物語だが、このヒロインは由貴タイプで好きな相手にだけ素直になれない子。けれどどこか肩入れしたくなる部分がある。お嬢様という家柄の設定が絡むため、政略結婚なども描かれていて、現代に読むとかえって新鮮かも知れない。

本作2編では、ライバルや気の強い女の子が魅力的に描かれているため、爽快な気分で読み進められる。根はいい子なのに……でもわかる〜、と頷けてしまうのだ。主人公が親友などのアドバイスなどもなしに、自分で解決の糸口を見出していく部分が、時代を経てもなお女性読者を虜にするだろう。心に元気をもらえる一冊だ。

【作品データ】
・作者:友井美穂
・出版社:ビーグリー
・刊行状況:全1巻