本当は誰が好き?『ウェディングドレスは死の匂い』は友情と嫉妬の渦に!

友達の友達を好きになったけれど言い出せないとか、仕方なく片思いの相手を他の相手とくっつけるように手伝ってあげたり……そんな不器用な恋愛をしてしまうことも、案外よくある話だ。しかし、そのせいで誰かが死んでしまったとしたら──?自分の些細な言葉や行動で傷付けてしまい、自殺に追い込むことになったり、知らぬ間の早とちりから事故を招いていたら……。本作『ウェディングドレスは死の匂い』は、そんな友情と恋愛の絡み合いを描いた、7編のホラー短編集だ。

1本目では、グループの中で一人だけ彼氏がいないことで、陰口を言われていたと知って、本当はいるけれど行方不明になってしまったから黙っていたと嘘をつく少女。せっかく旅行に来たのだからと友人たちにけしかけられ、恐山のイタコに適当な男性の名前を告げると、なんと憑依して嘆きをぶつけてくる。イタコはインチキがわかったと思ったのに、その後次々と不可解な現象に悩まされ……?

全編を通してたびたびモチーフとして使われているのは「電話」である。まだ携帯電話がなかった時代のせいか、固定電話にかかってくる電話には相手の名前も表示されないのがむしろ恐ろしい。しかし、相手がわからないため、電話に出ないのも困るというところを巧みに演出している。

また、好きな相手に勘違いさせてしまったり、自分が勝手に思い込んでしまったりという要素も、ホラー漫画にはありがちだが、うまくアプローチしてマンネリ化を防いでいるのがいい。表題作では、タイトル通りにウェディングドレスにまつわるエピソードが描かれているが、レンタル衣装は怖いなと感じてしまう部分もあったりする。まぁ、普通は事故物件の衣装は処分するはずだが……。

ホラー要素と恋愛要素、そして嫉妬や勘違いなど、ワンパターンになりがちな設定を敢えてうまくいかした7つの短編は、どれもうまくまとまっていて読みやすい。主人公と脇役は、あからさまに顔が違うのでわかりやすいという、少女漫画要素も十分だ。そしてホラーで何より怖いのは、「逃げられない」ということ。行く先々でトラブルが起こり、電話が入り、幻像が見える。

しかし少女漫画なだけあって、最終的にはもともと思い合っていた男女が結ばれることになるとか、死んだ友人が祝いのメッセージを囁いたりなど、後味はそう悪くはない。人の死や呪いよりも、女性同士の上辺だけの友情の方が恐ろしいような気にさせられる作品だ。

【作品データ】
・作者:藤田素子
・出版社:ぶんか社
・刊行状況:全1巻