“政治”を娯楽に昇華させたアクション快作!『マーダーライセンス牙』

スポーツから恋愛、SFまで広く表現できるのは「漫画」という媒体の素晴らしいところだが、政治ジャンルはお世辞にも相性が良いとは言えない。どれだけ魅力的な主人公キャラを用意しても、しがらみの多い世界では扱いきれないのが原因だろうか。しかし、ぶっ飛んだ設定をこれでもかと詰め込んだ結果、政界を舞台にしながらエンターテイメントとしても完成された傑作がある。今回はそんな『マーダーライセンス牙』を紹介したい。

日本国総理大臣・板垣 重政は清廉にして実直、国民を家族のように大切に思い、また人々から慕われる理想の政治家である。しかし陰謀うずまく政界は、綺麗ごとだけで志を貫けないことも多い。敵対国からの諜報やテロ、国内の反板垣派によるワナ……次々と危機に見舞われる板垣総理だが、彼のそばには“切り札”と呼べるプロフェッショナルがいた。

その名は木葉 優児。さまざまな忍術を極め、どんな逆境も単独で切り抜けられる最強の男だ。そして国内でただ1人、殺人許可証(マーダーライセンス)を与えられた者でもあった。今日もまた日本の平和が侵されたとき、板垣から「牙を突きたてろ」という密命を受け、必殺の牙が敵を葬る──!

こんな感じの作品で、全体として政治ドラマ+アクション+お色気(+若干のグロ)で構成されている。

なんといっても一番の見どころといえば、牙こと木葉 優児の特殊なキャラクター性だろう。普段の姿は20歳くらいのイケメン青年で、スポーツ施設のインストラクターをしている。彼は筋肉のコントロールによって完璧な美女(!)に変身でき、その姿で板垣総理の主治医として国際政治の舞台に立つこともある。さらに、いざ総理自身や日本の国益がピンチに陥ると忍び装束に身を包んだ忍者となり、テロリスト、軍人、武術家といった世界中の猛者たちに立ち向かうのだ。

忍者刀やワイヤーなど各種武器を駆使した牙の派手なアクションが主体だが、政治の裏側も意外と念入りに描かれていて、なかなかおもしろい。アメリカのように実名で語られる国があれば、どう見ても中国だけど都合により伏せ字にされた「C国」なんてのも出てくる。フィクション世界観だがイラク戦争や独裁国家の民主化運動など、連載当時の時事問題をベースにした出来事が扱われている。そうした時事イベントの「リアル」と、超人的忍術バトルの「アンリアル」が絶妙のバランスで描かれ、20巻を超える長編でありながら飽きることなく読み進めていける。

国際情勢にプロフェッショナルの戦闘を組み込んだ長編漫画といえば『ゴルゴ13』が有名だが、それをジャンプ系列っぽく万人受けするように、若干カジュアル化したのが本作と言っても良いだろう。スカッとするアクション漫画を読みたいけど、骨太のリアリティも欲しい……そんな人にはぜひ『マーダーライセンス牙』をオススメしたい。

【作品データ】
・作者:平松伸二
・出版社:集英社
・刊行状況:全22巻