夫の兄は売れっ子オネエ?!『お義兄(ネエ)さまと嫁(ワタシ)』で自分を見つめ直そう!

現代では、結婚はひとまず「個人的なもの」として受け入れられつつあるが、かつては「家と家の結びつき」とさえ言われていた時代もあった。今でも義両親の愚痴を言う奥様方の話は絶えないため、地域や家庭によってはまだ残っている部分も大きいのだろう。やはり結婚相手の両親は、結婚前にチェックすべし……とは言えども、兄弟姉妹まで気に掛ける余裕はあるだろうか?

本作『お義兄(ネエ)さまと嫁(ワタシ)』は、そんなニッチな部分をうまく切り取ったヒューマン・ドラマとしてコンパクトに描かれている。

いつもすっぴんで、メイクをしてもせいぜい100均コスメしか使ったことがなく、着ているものはたいていが高校時代のジャージ、中途半端な髪は自分で切るという「ザ・地味!」な皆子。夫も地味オーラ全開の、穏やかで優しいおっとりした男性なので、夫婦仲はとてもいい。しかし夫は兄とも仲が良く、おかげでしょっちゅう遊びに来るため、皆子は付き合い方に戸惑っていた。

何故ならその兄は、多くの女優やモデルに支持されるメイクアップアーティストであり、自身も華麗な衣装とオネエキャラでタレントとしても大忙しの有名人・リッキー郷田だったから。おしゃれや交友関係よりも、節約して貯金をするようなパート主婦で、確かにリッキーの言う通り「新婚3ヶ月の新妻には見えない」皆子とは縁のない世界の住人なのだ。

オネエの業界にもいろいろあり、芸能人でもあるリッキーはあらゆる方面から嫉妬や恨みも買っている。しかし「アタシは昔からこーだった」と、キレイなものが大好きで自由でいたい自分をわかってくれる人は少なかったとリッキーは言った。そんな中でも、唯一いつでも無条件で味方でいてくれたのが弟だったから平気なのだとも。重く響くエピソードだ。

ある事件でとうとう我慢ならなくなった皆子は、リッキーに「お義兄さんと私たちは違うんです」という、差別的な言葉を吐いてしまう。反省して夫に打ち明けたところ「僕は兄さんの弟だけど、君は僕の奥さんだから、君がイヤだと思うことはしない」と、きちんと皆子のことも兄のことも考えていると知った。穏やかで優しいだけではなく、決してブレない夫の温かさに胸が熱くなる。

やはり無関係ではいられない。それは嫌いではないから。悲しむ姿を見たくないから。自分たちさえよければいいという考えでは、きっと誰かを傷付けてしまう。そうして皆子が自ら行動するようになり、強くキレイに変わっていくことに向き合うようになれたことで、また距離が縮まっていく。

平和で穏やかなのは一番いいのかも知れないが、それは惰性の現状維持とはまた違う。多少大変なくらいの方が、生きていく楽しみがあるように感じられるのではないだろうか?リッキーの強さや潔さ、皆子の夫の穏やかで優しい大きな器。兄弟なのだな、と感じられて、こんな小姑も悪くない……と思えてくるはずだ。

【作品データ】
・作者:さかたのり子
・出版社:A-KAGURA
・刊行状況:全1巻