アイドルだって恋したい!『だから猫はやめられない』で本物の恋を見つけよう!

若くしてデビューしたトップアイドル・萩原麻子は、ハードスケジュールや芸能界のしがらみに疲れ果てていた。そこでひと芝居打ってマネージャーを出し抜き、「過労による絶対安静」という医師の診断を得る。その間に病院を抜け出したところ、偶然捨てネコに優しくタオルを掛けてやり「おまえがネコの形してなきゃつれて帰るんだけど」と呟いている青年を見かけた。普段触れることのない優しさに心を打たれた麻子は、こっそり彼についていき……?

「小林幸弥」と書かれた表札の部屋に入っていったことを確認した麻子は、ネコに掛けられていたタオルを持ってドアをノックする。現れた幸弥は芸能界オンチで、トップアイドルである麻子を見てもまったく気付かない様子。そこで麻子は思い切って「にゃーお」とネコの鳴き真似をしてみたところ──? 麻子を知らない幸弥は、一旦はまさかのメルヘン展開に騙されるものの、寝ていた麻子の寝言を聞いて「騙されてみるか」と覚悟を決める。

この作品は昭和の終わりに描かれた作品で、当時は今よりも更にアイドルの恋愛には厳しかった。大学に進学もできず、普通の女の子がするようなことは何も経験できなかった麻子は、当たり前の自由に新しい世界を見つけて喜ぶ。誰も自分をアイドルとして見ないし、幸弥も「ねこ」と呼ぶ。しかし「ねこ」が芸能人であるということは、一般人の自分との関わりは邪魔になるのではないかと幸弥なりに悩みもするのだった。

年に一度の掲載で3作品のシリーズとなった本作は、絵柄は古めの少女漫画だが、電子化にあたって1冊にまとめられた。いつの時代でも違う世界に住む相手との恋愛に障害はつきものだが、演技とは言え恋人以外とのベッドシーンがある作品への出演に戸惑う麻子や、意図せずして他人のスキャンダルに巻き込まれたりする二人。波乱万丈ながらも、一見すれ違いがあったりもして、読み進める手が止められない。

作品ごとに年齢を重ねる麻子と幸弥も成長していくので、第3話(最終話)では幸弥が助手を務めるゴシップ誌を通して、マスコミのスキャンダル掲載合戦もリアルに描かれているのが見もの。山あり谷ありながら、最終的には麻子自身の選択で世を騒がせつつも大団円に持っていくのは、さすがトップアイドルというところだろうか。読後感も良く、思わずガッツポーズをしたくなる昭和末期のアイドル恋愛漫画である。

【作品データ】
・作者:遠野かず実
・出版社:オフィス漫
・刊行状況:全1巻