一人の“夢”が弱小チームを変えた!痛快逆転ストーリー『県立海空高校野球部員山下たろーくん』

主役となる県立海空高校の野球部は、自他ともに認める弱小チームでコールド負けの常連。だがある日たまたま、強豪と名高い山沼高校野球部が近くを通りかかり、ふざけて海空の選手を褒めたところ、単純な彼らはお世辞を本気にしてしまう。

「あの山沼高校に勝てるかもしんねー」。そう思い込んだ海空野球部は、チームでも飛び抜けてやる気のある投手・山下たろーを筆頭に猛特訓を開始。1ヶ月後に迎えた山沼高校との練習試合から、彼らの“奇跡の快進撃”がスタートするのだった……!

名作・傑作が多いと言われる野球漫画の中で、この『山下たろーくん』は昭和時代の週刊少年ジャンプを代表する一作だ。現在は電子コミックとして読めるようになったので、この機会に紹介させていただきたい。

本作の大きな特徴は、なんといっても主人公・山下たろーというキャラクターの強烈な個性だろう。

山下たろーは背が小さくボケーっとした顔つきで、勉強も苦手。なにひとつ取り柄がなくイジメられもするが、本人は大好きな野球で「史上最高の野球部員」になるという夢を決して曲げなかった。そして冒頭ストーリーで強豪校に刺激を受けたことで、運命が大きく動き出す。たろーの猛烈なモチベーションがだらけていた部員たちに伝染し、良い意味でバカの集団となった海空野球部はとんでもない粘りとパワーを発揮するようになった。

同時に激戦の中で、たろー自身の眠っていた才能も開花していく。イジメられても大怪我しない柔軟な体から繰り出される速球はすさまじい伸びを見せ、粘り強い足腰から放つ打球は長打を生む。「最低の野球部員」「生きてるだけで恥ずかしい」とまで言われていた彼が、やがて全国レベルのライバルチームから「最大の難敵」だとか「常に成長を続ける『発展途上人間』」などと讃えられるようになるのは読んでいて痛快だ。

作品のほとんどを占める試合シーンは、逆転につぐ逆転のハイテンション&スリリング展開で大いに盛り上がれる。高校生が時速200キロの球を投げる『緑山高校』などとは路線が違い、こちらはあくまで常識的な高校野球レベル。だがカーブやチェンジアップという実在の球種だけでなく、規格外のスピードボール「大速球」や、超変化球「大カーブ」が登場し、さらにどんな球も打ち返してしまう「隙のない打法」など、リアル性を損なわない範囲で各選手が必殺技を持っている。

そのおかげで、強敵に苦しみながら海空高校がギリギリ逆転で打ち破る……というパターンが定着してからも飽きることなく、次はどんな技をもったライバルが出てくるのだろうとワクワクしながら読んでいくことが可能だ。

たろーを事あるごとに殴りつける(親愛表現ではあるのだが)暴力的なチームメイトが存在したり、試合と無関係な人間がベンチに潜り込んでアドバイスを送ったりなどという、緻密な描写が増えた最近の野球漫画と違って、おおらかな部分はかなりある。絵柄もスタイリッシュとは言えず、全編が泥臭さと汗にまみれている。だが作品全体のパワーがそうした細かいアラを吹き飛ばしてしまうので、読む気を削がれる心配はないだろう。

弱小チームが奮起して強豪に立ち向かうという現代にも通じる普遍的ストーリーに加え、海賊王ならぬ「史上最高の野球部員になる!」という一貫してブレない主人公の夢、そしてジャンプの3大テーマである努力・友情・勝利まで完備した本作。少しでも気になった人は、ぜひ読んでみてほしい。

【作品データ】
・作者:こせきこうじ
・出版社:集英社
・刊行状況:全21巻