【前編】医療小説のトップにして原点となる作品がついに漫画化!『白い巨塔』徹底解説

【あらすじ】
舞台は2018年3月。

近畿地方は猛烈な豪雨に襲われ、各地でかけ崩れが発生する。後輩医局員の送別会に向かう途中だった財前五郎(国立浪速大学第一外科准教授)は、途中でがけ崩れに巻き込まれた親子を発見。

無事だった子供と協力して瀕死の状態だった父親を完璧な処置で救ったことから、マスコミにも取り上げられるようになり、消化器外科(肝臓・脾臓・大腸など)の若き権威としてもてはやされている。

しかし、師である東貞蔵(第一外科教授)は財前の影響力が大きくなることへの危機感から、次第に彼を遠ざけるようになり、あからさまに苦言を呈するようになる。

周囲からは「東教授退官後の第一外科次期教授有力候補」と見られており、財前自身も教授選に勝利したいと思っているなど権力欲は強い。そんな性格が災いして、後に東と鵜飼の権力争いに巻き込まれることとなる。

一方、第一内科准教授の里見脩二は、財前とは正反対で学究肌。

「一人ひとりの気持ちに寄り添った医療を提供する」という信念を持っており、師である鵜飼庄之助(第一内科教授)とはたびたび衝突するものの、それを意に介さず自分のペースを貫くところがあり、出世にはまったく興味がない。

こんな正反対の人物だが、二人は同期生で親友であるとともに、終生のライバルとも呼べる関係である。

そんな彼らの友情から東との師弟関係、医局内を巡る権力闘争など医療にまつわるできごとを通して、『白い巨塔』に挑んだ人たちの物語を描く。

【白い巨塔とは】
『白い巨塔』とは、『大地の子』や『華麗なる一族』などで有名な作家・山崎豊子さんが、1963年~1965年にかけて『サンデー毎日』に連載した小説です。

当初は第一審までで完結予定となっていました。そのため、正編は財前が助教授(現在は准教授)から教授となり、手術をした遺族から医療過誤で訴えられた後に遺族側が第一審で敗訴するところで完結となっています。

その後、読者の反響が大きかったことから、1967年~1968年にかけて控訴を決意したところからはじまる続編が開始。

続編は、里見が病理解剖を行うことを遺族に提案。死因の究明を行った結果、財前に非があったことが判明したことで控訴するところからはじまります。第二審では、次々と自分に不利な証言が出てきたことで敗訴、

財前は上告すると息巻いたものの、自身が癌に侵されていることが発覚。手術を行うものの、すでに手遅れの状態であり、そのまま死を迎えます。

当初は、正編を『白い巨塔』というタイトルで1965年に、続編を『続・白い巨塔』というタイトルで1969年に単行本として出版、1978年に文庫として正編を『白い巨塔』上・下、『続・白い巨塔』が出版されましたが、その後2002年に全5巻として再編されたものが新しい文庫本として出版されています(いずれも新潮社)。

2019年は『続・白い巨塔』(完結編)の出版から50周年の節目となる年で、その節目に合わせて新潮社の『コミックバンチ』にて、安藤慈朗先生の手でコミカライズがなされました(2018年12月号~)。

【原作との相違点】
原作となる山崎豊子先生の『白い巨塔』は、1965年に発表された作品です。医学は日進月歩で新しい技術が登場するので、ドラマ化の度に設定の変更がなされています。

ここでは、原作とコミック版での相違点を見ていきましょう。

<財前の専攻分野>
原作では食道外科(食道噴門癌)となっているが、コミック版では消化器(肝臓)外科。

<花森ケイ子の職業>
原作やドラマではバー「アラジン」のホステスとなっているが、コミック版では「ピッツェリア&バル K」のオーナー。なお、2003年版のドラマでは女子医大中退となっているが、この設定はコミック版でも引き継がれている。

<オリジナルエピソード>
原作やドラマにはないオリジナルエピソードとして、高校生・小西菊郎の少腸癌が出てくる。

教授選を迎える前に鵜飼との絡みで出てきていることから、これから描かれる教授選に向かって何らかの影響を及ぼすものになると考えられる。

『白い巨塔』は、これまでにも何度かドラマ化がなされてきましたが、2019年5月22日(水)~5月26日(日)までテレビ朝日開局60年記念ドラマとして、5夜連続で放映されます。

原作とコミックを読みすすめることで、ドラマも興味深く見ることができるはずです。

後編では、これまでのドラマと比較していくと共に、実際に原作やコミック版とどのような違いがあったのかについて詳しく解説していきます。

【作品データ】
・作者:安藤慈朗
・出版社:新潮社
・刊行状況:2巻まで