自分が決めた道を行く!『青年は荒野をめざス』で本当の自分を貫こう!

28歳になった姉がようやく結婚するということで、祖母の葬式にすら帰省しなかった矢代家の長男・友哉は、5年ぶりに実家に帰ることになった。東京に出て「かわいい女の子」になっていた友哉だったが、仕方なくその姿で実家に顔を出すことに。「ただいま」と帰ってはみたものの、出迎えた母親には案の定「どちら様?」と聞かれて「友哉よ」と答えるが──?!

田舎に暮らす昔気質の父は、当然女性になった友哉を許さず、姉も結婚式には出るなと言う。しかし友哉は、かつて自分をいじめていた男子生徒が弟の学校の教師になっていると知り、仕返しをすべく近付いてみると、意外な事実を知ることになった。巡り巡って今の自分がいるのだと、再認識させられる。

友哉の母は穏やかで、近所の人にも恥ずかしげもなく女性になった長男を紹介してくれる。父もきっとわかってくれるからと、自分らしく生きることに背を押してくれる素敵な女性だ。そこで育った友哉だからこそ、多くの人に愛されて理解されるようになる。その経緯はコミカルながらもしっかりと描き出されていて、読者の胸を打つだろう。

同時収録されている『SHINTARO綺譚』は5話で構成されている。こちらは底辺の大学を卒業したものの、就職できずに家業を嫌々手伝うハメになる新太郎が主人公の物語。頭の中は女の子のことばかりで、顔だけはいいのにもう26回もフラれているし、フラれたその日のうちに新しい恋を見付けるような節操なしにも思える。

和菓子屋を営む頑固な父は、優秀な弟子の努と店を切り盛りしているが、母を早くに亡くしている新太郎は不出来。2人の親友がいい味を出しているが、女性に節操のない新太郎がさまざまなトラブルに巻き込まれるのも、その異色さが際立って面白い。過去のトラウマを乗り越えた新太郎は、相変わらず報われない恋に翻弄されるが、そんな強い個性がかえって読者を引き込むはずだ。

2つの作品が収録された本作だが、どちらにも通じているのは「自分らしさ」を失わないこと。方向性はまったく違う2作だが、ブレない自分を持つということは、想像しているよりずっと難しい。強くあるか、バカであるか、それくらいでなければ、きっと途中で折れてしまうだろう。

友哉や新太郎がまっすぐに突き進めるのは、周囲に理解者や応援してくれる人がいるからだ。つい応援したくなる人というのは、やはりどこかが違っていて、それでも前向きでいられる人なのだと感じさせられる。人とは違うと悩む自分を受け入れられるきっかけの作品になるに違いない。

【作品データ】
・作者:長浜幸子
・出版社:Benjanet
・刊行状況:全1巻