逃げた先にあるものは……?『ロストワールド〜虹を求めて〜』が心の居場所になる!

ごく普通のOLだったはずの、29歳の上松可織。しかしある時偶然、上司である経理課長が会社の金を横領していることを知る。しかもそれを女に貢いでいるらしい。放っておけばよかったものの、その日帰宅すると同棲中の彼氏が女を連れ込んでいた。怒って男を追い出したが、結局彼は戻らない。さらには追い打ちをかけるように件の上司に理不尽な叱責を受け、無情にもクビを宣告されてしまい──?!

ほんの些細な不運の連続が、可織の心の中で悪魔になって囁いたのは「課長の悪事をバラすより、退職金がわりに金を巻き上げてしまえ」という妙案。勢いで実行してしまった可織は、とにかく誰も知らないような場所へ逃げようと車を走らせた。しかし、またしても不運なことに、途中で人身事故を起こしかけてしまう。幸いにも相手は無事だったが何やらワケありらしく、一緒に車に乗せて逃げるハメに……。

可織たちが辿り着いた先の見知らぬ土地は、間もなくダムの底に沈む場所だった。普通なら、都会暮らしの若者が田舎に来ても、すぐに音を上げて立ち去るだろう。当初はそう考えて可織たちの移住を嫌っていたそこの住人たちだったが、行くアテがないのは実は同じだったのだ。土地の人にもいろいろあるようで、各々が持つドラマに心が動かされる。

絵柄は少女漫画でありながらも、キャラクターは個性豊かで物語の強弱もあり、どんどんと読み進めていける引き込みがある。長過ぎず短過ぎないページの中にも、いくつかの考えさせられるエピソードが挟み込まれ、読者もどこか他人事には思えない気持ちになるだろう。終盤に向けての加速も絶妙なバランスになっている。

世の中には、ちょっとしたことで人生が狂ってしまったり、小さな誤解を解けないままに離れてしまったりしてしまうこともある。悔やんでも遅かったり、取り返しがつかなければ、いつまでもそれを引きずってしまうだろう。だからこそ、きちんとケリを付けると決めた可織たち都会者の決意に、住人たちもそれぞれに心を決めたのだと思う。

「帰れる場所」があるというのは、実は非常に恵まれていて安心できることなのだ。失って初めてわかる大切さを失う前に、多くの読者にこの作品でしっかりと理解してもらえればと感じてならない。たとえその場所が、自分とは縁もゆかりもない場所であっても、待っていてくれる人がいればそれだけで十分なはずだ。

【作品データ】
・作者:神奈幸子
・出版社:オフィス漫
・刊行状況:全1巻