不思議な青年の想いが誰かを救う……『紅奇譚』で束の間のファンタジーを

燃えるような美しい紅の夕暮れを眺めながらもの思う……彼女は鮎川みやび。手作り雑貨店を営む病弱な母を持ち、それでも前向きに生きるひたむきな少女だ。幼馴染の透は幼い頃からみやびを気遣って、淡い恋心を抱いている。ある日河原でみやびは和装の青年・左近に出会い、「昔の物の方が落ち着く」と言うので母の店に呼んでみる。フルカラーで描かれる、王道恋愛ファンタジー。

店に来てくれたお礼にと髪飾りを左近にプレゼントしたみやびは、そのお返しにと根付(ストラップのようなもの)をもらう。「星屑石」というものが入っているらしい対の根付を2組もらったみやびは、ひとつを左近に渡した。喜んだ左近は「何かあればこの石に念じれば必ず飛んでいく」と約束する。

もう長くは生きられない母親の具合が悪くなるたびにみやびはわざと明るく振る舞うが、透はそんな姿を見ていられなくて、どうにかしてやりたいと思っていた。透と一緒にいる時のみやびを見れば、彼女もまた透に好意があることは左近にもわかる。もともと叶わない想いなのだからと、なるべく気に掛けないようにしていたが、ある現場に遭遇し──?!

少女漫画といえば、大抵序盤を読めばあらかた内容の予想はつくが、だからこそそれをいかに魅せられるかが鍵になる。『紅奇譚』はそう長い物語ではないものの、フルカラーの強みをしっかりと活かす美麗なタッチに、キャラクターのまとう色彩、濃淡の効果がうまい。画集のような美しさは、冒頭の燃えるような夕暮れから心を奪われるだろう。

幼馴染、結ばれない想い、病弱な母親……ありがちなモチーフではあるが、どこか儚く切ない色合いが作品を引き立てる。好きな女の子が泣く姿は見たくない、というのは少女漫画の中では、恋する男子の必須条件だ。二人の男性キャラクターが登場するものの、そこに諍いがないのが読後感を良くしている。自己犠牲の精神で少女を守ろうとする男の子には、やっぱり乙女はときめくものなのだ。

【作品データ】
・作者:ミツキミサ
・出版社:オトロマ
・刊行状況:全1巻