狂四郎2030 1 (ジャンプコミックスデラックス)

愛は勝てるか? 近未来ロミオとジュリエット『狂四郎2030』

狂四郎2030 1 (ジャンプコミックスデラックス) 【あらすじ】
舞台は2030年、第三次世界大戦をくぐり抜け日本人は細々と生きていた。徹底した管理と歪な政治が生み出した悪法は、男と女が一緒に生きることさえ許さなかった。そんな時代、コンピュータネットワークで偶然出会った狂四郎とユリカは愛しあってしまう。ユリカがコンピュータの作り物ではなく実在の人間であることを知った狂四郎は、ユリカと会うため旅に出る。狂った政治と理不尽な社会、そして自らが招いた過去の因縁に翻弄されながら――

【愛は勝つ!】
作中において、日本は退廃しています。一部の上流階級は贅沢に生き、それ以外は奴隷以下の扱い。普通ならこういう作品は革命やクーデター、つまり体制側のトップを倒して国を変えることが最終目的なのですが、この作品は徹頭徹尾「ただ愛する女性と会うため」「結ばれるため」にストーリーが進みます。いわば古典的『ロミオとジュリエット』式ラブストーリーなのですが、王道であるからこそストレートに胸に響いてきます。

【歪みの申し子、狂四郎】
主人公である狂四郎は大戦時に英雄的な活躍をした圧倒的戦闘力の持ち主として描かれています。しかし彼は国の政策上、英雄になれず一兵士となりました。彼の戦闘力は徳弘氏の描くアクションシーンの緻密さと相まって圧倒的な迫力を見せますが、いつも彼はそんな戦闘マシーンとしての自分を嫌悪します。時に過去の友人と、時に遺伝子操作の怪物と戦い、心が壊れそうになりながら愛を信じる彼の救いはただ恋人・エリカの存在。爽快だけど切なくて、大人に向けたボーイミーツガール作品として奥深い主人公といえます。

【徳弘氏の問題作品】
30代以上の読者は少しエッチな勧善懲悪作品、『ジャングルの王者ターちゃん』を代表作として思い出す徳弘作品ですが、その感覚でこの作品を読むことはオススメできません。『狂四郎2030』と次作『昭和不老不死伝説 バンパイア』『近未来不老不死伝説 バンパイア』は青年向け雑誌に掲載されたこともあり、いつものギャグもありますが、救われない善人が多数登場する作品でもあります。

しかしシナリオ面でいうとその完成度は高く、いつも作品の主題はぶれずに「愛」。その愛情はどこか狂っていて切なくて、ある意味では最近の「お気軽なハーレム恋愛」と対極にある思想が見え隠れします。でも、だから響く。だからこそ強く印象に残る。アクション・冒険・そして恋愛の詰まった物語をぜひ読んでほしいものです。

【作品データ】
・作者 :徳弘正也
・出版社 :集英社
・刊行状況:全20巻(完結)

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