1980年代の“ファミコン熱”が伝わる快作『ファミ魂ウルフ』

スマホゲームが勢いを増した今でも、まだまだ強力なキラータイトルを抱え、進化を続ける家庭用ゲーム機。今回はその原点ともいえる名機・ファミコン(ファミリーコンピュータ)を題材にした熱血ゲームバトル『ファミ魂ウルフ』を紹介したい。

主人公は野生 命知狼(やお いちろう)という田舎暮らしの少年。見た目も性格もワイルドな彼は幼い頃、なんと狼によって育てられた過去を持っていた。そんな情報を聞きつけた大企業・剛田コンツェルンは、流行の先端である「ファミコン」プレイヤーの資質を見抜き、命知狼を自社の広告塔にしようと計画する。

だが育ての親である狼を誘拐してまで協力を迫った社長に、命知狼は激怒。社が抱えている強豪選手をファミコン勝負で真っ向から破り、スカウトを拒否した。これ以降、彼は剛田コンツェルンの放つ刺客から狙われることになり、数々の苛烈な勝負を繰り広げていく──!

本作は1985~1988年というまさにファミコンブームの最中に連載されたもので、同時期には『ファミコンロッキー』『ファミコン風雲児』『ファミ拳リュウ』など、個性あふれるファミコン漫画が少年読者を熱狂させていた。

この『ファミ魂ウルフ』はそんな中でも、“野生”にフォーカスした展開が見どころ。狼に育てられた命知狼はピンチに陥ると野生パワー「ウルフスピリット」が目覚め、おそるべき動きで対戦相手を打ち負かすのだ。

命知狼を狙う剛田コンツェルンのライバルも常識外の強さを誇る。ゲーマー養成所では1秒間に50連射できないと落ちこぼれ扱い、教官を怒らせると容赦ない電気ショックを浴びせられるなど、超スパルタ教育で秀才たちを鍛え抜き、その選抜メンバーが命知狼にぶつけられる。

こんな両者が激突するなら、80年代のゲームソフトでは地味すぎるのでは?と思うかもしれないが、当時のファミコン漫画はどれも独自の工夫でド派手なバトルを描いていた。

たとえばウルフスピリットを発動した命知狼はプレイヤーキャラと一体化し、それが漫画にも反映されるため迫力は満点。また大会では主催者公認で特殊な改造ROMが使われたり、「キャラと同じ動きを自分もしなければならない」というルールが設けられたりして、作中に出てくる『スーパーマリオブラザーズ』『グーニーズ』などのゲームを知っている読者でも新鮮なワクワク感が得られる。

剛田コンツェルンは誘拐や闇討ちといった卑劣な手を使って勝ちに来るが、それでも命知狼は堂々と戦い、試合後はライバルと友情をはぐくむなど、きっちり少年漫画の王道を描いているのも好印象だ。

本作は残念ながら(おそらく権利上の事情で)4巻までしか単行本が発売されていないが、それでも昭和末期のファミコンブームがどんなものだったか、楽しみながら知ることができるはず。あの熱かった時代を振り返りたいおじさん世代はもちろん、当時を知らない若い人たちにこそ読んでみてほしい作品である。

【作品データ】
・作者:かたおか徹治
・出版社:グループ・ゼロ
・刊行状況:全4巻