幼い頃から、誰に教えられたでもないのに、いつの間にか口にするようになる「わらべうた」。古くから受け継がれた日本の伝統のようなものだが、歌詞には不明瞭な点が多く、謎の言葉も使われていたりする。「昔の歌だから」「方言じゃない?」と、あまり気に掛けることもないところに、実は闇が潜んでいたりもする。『恐怖のわらべうた』は、そんな「わらべうた」をモチーフにしたホラー・ミステリー漫画の短編集だ。
『あぶくたった……』では、不慮の事故で義祖母・母・妹を失った少女が主人公。実の父は既におらず、それまでは母の再婚相手とその母親と四人で暮らしていた。実の母と義父の間に妹が生まれてからは、自分だけを見てもらえなくなってしまったと感じていたが、大好きな義父と二人だけの家族になってしまった今、家事も勉強も頑張っている。
しかし、ある日義父の友人の娘という女の子に出会う。以来、彼女は自宅にやって来ては大切な母や家族の思い出の品を壊したり汚す様子が、完全に悪意があっての行為だとわかった少女だったが……。救われない子供の魂は鬼になると言われ、飢えて人間の憎しみに歪んだ醜い心を食べにくると言われているとか──?
『あんたがたどこさ』は歌詞の通りに熊本が舞台。方言をふんだんに使って、伝説の水路を軸に哀しい恋の顛末が描かれている。『蛍』は「こっちの水は苦いぞ」という印象的なフレーズを使った、水泳部の少年と水が苦手で泳げない少女の恋物語。おてんばな少女だったのに、ある日を境に泳げなくなり、その頃の記憶も曖昧なため、二人で真相を見つけに行く。『哀恋!!呪い雛』は「かごめかごめ」がモチーフの悲恋。転生というファンタジー手法で、古い時代の身分違いの恋を描いている。
4つの短編が収録されているホラー・ミステリーの恋愛漫画だが、軸がきちんとしているので、恐怖もあるが感動も大きい。最後もきちんとまとまっていて「そういうことか」と腑に落ちるので、ホラー漫画にありがちなモヤモヤ感もなく気分良く読了できて好感が持てる。タイトルからして「本当はこんなに怖いわらべうた!」というものを想像しがちだが、本作を読んでみると、その先入観は払拭されていくだろう。自分でいろいろな「わらべうた」を解釈してみるのも面白いかも知れない。
【作品データ】
・作者:MIDUTI
・出版社:オフィス漫
・刊行状況:全1巻