オムニバス4編『夜のおはなし』はまるで美しい詩集の余韻

漫画と言えば、4コマ漫画でなければ、ある程度のボリュームがあってこそ、物語があるように思う。基本的に雑誌掲載などでも、最低でも8ページか16ページは必須なのだが、この『夜のおはなし』に収録されている漫画はわずか4編で、しかもそれぞれが非常に短い物語だ。しかし、ページのボリュームと内容の濃さが、必ずしも比例するわけではないと思い知らされる、読者の心の中で物語の続きが描かれそうなオムニバス作品集になっている。

冒頭は、わずか5ページだけの『金魚の箱』。どことなく昔話の『浦島太郎』を思い出すが、水槽から出てしまった金魚を戻してあげた少女が、その後どうなるのか謎めいている。少しあっけない感じもするが、だからこそ想像力を掻き立てられる部分もあるだろう。

夢と現が混じり合ったような『月の海』は、一時とても流行して、映画や小説のモチーフにもよく使われた「メッセージボトル」の宇宙版。宇宙人の少女が、地球にいるはずの少年に向けて、彼から話に聞いた通りにガラスの瓶にいろいろなものを詰めて送る。いつかそれが彼に届いた時、本当に月に海があったのだと思い出すのが幻想的だ。

『Stella』は「星を飲んだ」という少年のおはなし。首に巻いた包帯を取ると、そこには星の形の輝きが宿っている。彼が歌うと星が降ってくるのを「すごくきれい」と喜ぶ少女を見て、少年はきっと、彼女の方こそ「本当にきれいだ」と思ったのだろう。淡い恋心を感じさせる、静かに輝く物語。

本作の中ではやや長めの作品になる『雨とビイドロ』は、誰かが落としたらしい鈴を届けるために追いかけているうちに、奇妙な世界に迷い込んでしまう少女が主人公。雨の日恒例の祭に誘われ、「少しだけならいいか」と案内人の女性たちと祭を楽しむが、「そろそろ帰らなきゃ」と言う少女に「元の世界はタイクツだらけ」「ズットココニイナヨ」という怪しい囁きが聞こえる。綱渡り的な危うさが美しい。

それぞれに少ないページ数で構成されているせいで、どの物語も全貌は明らかではない。どんな設定なのか、主人公の名前は何か、その後どうなるのか……?しかし、だからこそまるで詩集を読んでいるかのような不思議な余韻があり、各々で想像する楽しみが見つかるだろう。

絵のタッチも柔らかく、世界観も水槽や宇宙や異世界など、夢のようでつかみどころがない。背景すらない部分も多いため、濃い漫画を読み慣れていると白く感じられるかも知れないが、この敢えて残した「余白」の空気を読み取ってもらえると、改めて美しい世界に入り込みやすくなるだろう。何度でも読み返したくなる、不思議な魅力に満ちている。

【作品データ】
・作者:たけまつ
・出版社:エコーズ
・刊行状況:全1巻